筆者は1992年の翻訳論研究の中で,実践のための翻訳方法論を設定する試みをした。そのうちの第3項目に「英語の思考法に即した,すなわち英語のそれとわかる限りそのイディオムのなかに翻訳文を置く」(p. 134)を挙げている。本論では,向田邦子原作『かわうそ』の翻訳実践をもとにして,翻訳者の「透明性」という観点から,この原則の再検討をしている。「透明性」というのは,翻訳の「文体」と深い関わりを持っている。その関わりをできるだけ明確化して行こうとする試みである。いまだに確たる答が出ているわけではないが,それを考察してみると,たえず問題になってきた「等価性」の問題に行き当たることがわかった。本論は,等価とは何かを今後の課題にするための試みである。
translator's invisibility
domestication
foreignization
transparency
style
fidelity
acculturation
equivalence
source language
target language