重症骨盤骨折を伴う多発外傷の予後は悪い.治療成績向上のために,さまざまな指標が重症度評価や予後予測に使用あるいは検討されている.これらにはISS(Injury Severity Score),Revision of Trauma Score,乳酸値,APACHE(Acute Physiology and Chronic Health Evaluation)などがあるが,多くは必ずしも十分な指標ではなく,特に重症骨盤骨折を伴う場合の指標が必要である.本研究では外傷の解剖学的重症度指標としてのISS,病態生理・生化学的指標となる動脈血中乳酸値,およびこれらを乗じた【ISS×乳酸値】を指標として,山口大学病院に緊急入院した重症骨盤骨折を伴う多発外傷患者31名で評価した.また,【ISS×乳酸値】は生命予後と最も良い相関を示し,この値を60点mmol/Lに設定すると生命予後予測の感度は88%,特異度は93%を示した.結論として,【ISS×乳酸値】は初療室で測定・算定でき,重症骨盤骨折を伴う多発外傷の生命予後予測指標として優れたものてあり,経カテーテル的塞栓術を含む治療の指標としても有用と思われる.
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