【目的】糖尿病における角膜内皮は侵襲に対して潜在的に脆弱であり,内眼手術後に角膜浮腫を生じる症例を経験する.今回,糖尿病症例における手術侵襲に対する角膜内皮細胞の脆弱性およびその創傷治癒を検討する目的で,白内障術前後における角膜内皮の形態および機能を検討した. 【症例および方法】32例32眼(男性16例16眼,女性16例16眼),平均年齢70.8±7.2歳(53~80歳)を対象とし,超音波白内障手術を施行した.術前後における角膜内皮の形態学的な指標として角膜内皮細胞密度を,角膜内皮細胞機能の総合的な指標として角膜厚を計測し,全症例を術前の空腹時血糖110 mg/dlおよびHbA1c 5.8%で2群に分け比較検討した. 【結果】術前の空腹時血糖値によって分類した2群間の検討では,高血糖群(n=13)において術後1日目の角膜内皮細胞密度の変化-?261.6±293.3 cell/mm^2と,正常群(n=19)の-41.4±238.7 cell/mm^2と比較して有意に減少した(P < 0.05)が,その後は安定した値を示し,術後1ヵ月での変化量は正常群と有意差を認めなかった.角膜厚の変化量は,2群ともに術翌日に増加したが以降は徐々に減少し,群間に有意差はなかった.術前のHbA1c 5.8%を境界として分類した2群間の検討では,5.8%未満群(n=18)は術後1週目までに-160.7±219.3 cell/mm^2,5.8%以上群(n=14)では術翌日に-199.2±291.6 cell/mm^2とそれぞれ減少したが,その後は安定し,群間に有意差を認めなかった.角膜厚の変化量は,未満群で術後3日目まで,以上群では術翌日にそれぞれ増加したが,1週目には減少し,以降の変動は少なかった.群間に有意差はなかった. 【考察】術前に高血糖であった症例では術翌日の角膜内皮細胞密度が正常例より減少しており,内皮細胞への侵襲を最小限に留めるためにも術前の血糖管理は可能な限り行うことが望ましい.白内障手術は低侵襲化され,手術侵襲による角膜内皮障害は可逆的であるが,糖尿病患者では有意に大きいため,角膜内皮に対する手術侵襲を最小限とする努力が必要である.