クモ膜下出血(SAH)後の脳血管攣縮(CV)は, 患者の予後を左右する重要な病態である.しかし, その機序は十分に解明されておらず, 治療法も確立されていない.患者の生命的/機能的予後を改善するためにも, CVの機序解明と, 有効で非侵襲的な治療方法の確立が望まれる.臨床的に, CVに対してカルシウム拮抗薬による治療では十分な効果が得られないことから, CVの機序として, 平滑筋のカルシウム非依存性収縮が注目されている.その一つにRhoA/Rho-kinase系が知られているが, 我々の研究室ではRho-kinaseの上流因子としてsphingosylphosphorylcholine (SPC)の存在を突き止めた.SPCとCVの関係を明確にするために, SAH患者より採取した髄液のSPC濃度を測定した.また, イヌのSAHモデルとSPC投与モデルでCVを確認し, 髄液中SPC濃度の測定も行った.SAH患者9例から採取した髄液を固相抽出法と三連四重極型質量分析計を用いてSPC濃度を定量した.Controlとして測定した正常圧水頭症3例では2.667±4.619nMであったが, SAH患者のday 8の髄液からは29.012±6.306nMと有意に高値となっていた(p<0.01).また, イヌの髄液中SPC投与(髄液中にSPCが最終濃度100μM相当となるように注入)モデル(n=2)では, 投与120分後は投与前に対して明らかな上昇は見られなかった.SPCは正常な髄液中には微量(数nM)しか存在せず, SAH後の脳槽内髄液中には有意に上昇することがわかった.また, イヌの実験結果より, 大量のSPCを投与しても, 生体の髄液内ではすぐに希釈されることが推察された.このことから, SAH後の髄液内SPCは今回測定された定量値以上に多量に放出されていると思われる.以上から, SAH後のCVの一因としてSPCの関与が示唆された.
クモ膜下出血
脳血管攣縮
カルシウム非依存性収縮
三連四重極型質量分析計
sphingosylphosphorylcholine
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