山口医学

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山口医学 Volume 7 Issue 2
published_at 1958-04

Epidemiological Studies on the Possible Relationship Between Mortalities from Heart Disease and Soil : Part 2 Relationship Between Geotectonic Division and Distribution of Mortality from Heart Disease

心臓疾患死亡率と土壌との関連性に関する疫学的研究 : 第2篇 本邦心臓疾患死亡率の地域的差異と地体構造区分との関係
Kubota Morimasa
Descriptions
以上、本邦「心」死亡率の地域的差異と地体構造区分(気候、地形、地質、土壌及び農業生産条件)との関係について詳述せるところを要約すれば、次の如き事項が認められる。(1)本邦「心」死亡率の地域的差異は、本邦の「地体構造区分」と概ね相一致し、東北日本の内帯最も死亡率高く、同外帯これに次ぎ、西南日本の内帯更に低く同外帯の死亡率が最も低率である(第1・0~1・3図並に第1表)(2)これを按ずるに、「地体構造区分」が、気候、地形、地質、土壌及び農業生産条件の綜合たる事実に鑑み、以下各項目別に「心」死亡率との関係を統計的に追求考察して、次の如き事実を認めた。①「心」死亡率と気候要素との関係 (a)一般的傾向としては、寒冷高湿にして、而も寒暑の差が著しく、日照時間の短い地方(東北乃至北陸)に「心」死亡率高く、温暖低湿にして、寒暑の差が少なく日照時間の長い地方(西南日本、特に瀬戸内海沿岸)が低率である。(b)然しながら、気候要素相互の関連性を併せ検討すれば、主体性を示す気候要因は、気温と降水量と見做され、而も両者の綜合たるLang氏の雨量温度係数やN-S係数等との相関が、東北日本と西南日本の諸県で若干様相を異にしていることは、単なる気候要素としての意義に留まらず、土壌の生成並に植生の育成とも或る種の関係あることを示唆するものと解される。②「心」死亡率と土壌との関係 (a)「心」死亡率の地域的差異は地質的に見れば、一般的にいつて、火山岩第三紀層や第四紀層地帯に死亡率高く、古生層や深成岩地帯に死亡率低き傾向が看取され、この場合、河川水系の受水地域との関係を併せ考察すれば、特に地質と死亡率との関係が密接である。(b)而して、土壌的に見れば、弱ボドソール地域と森林褐色土壌地域に死亡率高く、赤色土壌地域やボドソール地域に死亡率低き傾向が認められる。尚また、水田の土壌反応との関係が密接で、水田酸性土壌面積比率或は腐植含有量面積比率との関係は、森林褐色土壌地域以外は、一般に逆相関の傾向を示し、特に水田土壌のpHとは、統計的にも明らかな逆相関の関係にある。③「心」死亡率と米麦生産量との関係(a)「心」死亡率の地域的差異と、各種の農業生産条件との間にも密接な関係が認められるが、就中、農業人口比率、耕地面積(農家一戸当)、米麦生産量(人口1人当)、特に米生産量(人口1人当)並に米及び麦の反当収量とは明らかな順相関関係、竹林面積比率とは明らかな逆相関関係にあって、土地を生産要素と見做した場合に、土壌と密接な関係があることを想わせる。(b)「心」死亡率の地域的差異は、大勢において時代的に殆ど変動せず、概ね一定の地域差を示しているが、精細に観察すれば、本邦において有機質肥料(明冶32~大正末期)から無機質肥料(昭和初期以降)に移行した時代と、肥料が不足した第二次大戦の前後で、若干の地域変動が認められる。而して、その間における施肥料並に米反当収量の地域的変動と「心」死亡率の地域的変動との間には、それぞれ密接な相関関係が認められる。要之、本邦「心」死亡率の地域的差異は、時代的に左程急激に変動せず、概ね一定の地域差を示し、その地域差は本邦の気候、地形、地質、土壌及び農業生産、特に米麦の生産と密接な相関関係が認められるのみならず、「心」死亡率の年次的推移乃至地域的差異の時代的変動もまた米反当収量並に施肥料とそれぞれ密接な関連性が認められる。このことは結局、「土地」を生産要素と見做した場合に、「心」死亡率と土壌との間に、直接間接重大な関係のあることを意味するものと解される。