心筋梗塞や狭心症などの血管病では,その原因として,よく知られている動脈硬化の他に,血管攣縮,即ち血管平滑筋の異常収縮がある.血管平滑筋の異常収縮の分子機構は,Rhoキナーゼ(ROK)を介する血管平滑筋収縮におけるCa^<2+>感受性亢進である.当研究室では,ROKの上流因子としてスフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)およびSrcファミリーチロシンキナーゼ(Src-TK)を同定し,血管平滑筋収縮におけるCa^<2+>感受性亢進のシグナル伝達経路として,「SPC/Src-TK/ROK」経路を明らかにした.さらに,このSPCによるヒト血管平滑筋収縮におけるCa^<2+>感受性亢進が,血清総コレステロール値およびLDL-コレステロール値と正相関し,血清HDL‐コレステロール値と逆相関することを見出した.しかし,血管平滑筋収縮におけるCa^<2+>感受性亢進に対する,組織コレステロール量,及びコレステロールが限局して蓄積する細胞膜ドメインである膜ラフトの役割はまだ不明であった.そこで本研究では,それらの役割を解明するために,ブタ冠状動脈を用いて,血管平滑筋の組織コレステロール量,膜ラフトのマーカー蛋白質であるカベオリン-1の量,及びSPCによるCa^<2+>感受性亢進という三者の相関関係について同一標本で検討した.その結果,ブタ冠状動脈では,これら三者,それぞれが,相互に正の相関を示すことが明らかとなった.以上のことから,血管平滑筋の組織コレステロールと膜ラフトは,血管平滑筋収縮におけるCa^<2+>感受性亢進において重要な役割を担っている可能性が示唆された.