本邦肝硬変症死亡率の地域的差異と気候、地形、地質並に土地利用区分特に農業経営状態等「地体構造区分」を中心とした物理的、生物的、社会的環境因子との相関を統計疫学的に考察し次の如き事項を認めた。(1)全国都道府県別にみた本邦肝硬変症訂正死亡率の地域的差異は、男女共、本邦の「地体構造区分」と概ね相一致している。即ちFossa Magnaを境として、西南日本の外帯が死亡率最も高く、同内帯之に次ぎ、東北日本の外帯之より低く、同内帯の死亡率が最も低い(第1・0図、第1・0表参照)(2)之が関係機序を追及するに当つては、Jenny & Majorの凾数式に着目し、「地体構造区分」を気候、地形、地質、土壌及び「土地利用区分」、就中、農業経営状態の綜合的表現と見放し、それぞれの環境因子との相関関係を検討し、以下述ぶるが如き知見を得た。A. 本症死亡率の地域的差異と各種気候要素との相関は、概して、Fossa Magnaを境として、東西両日本で相関傾向と相関程度を異にし、気候要素そのものの相関には、東西両地域於いて、可なりの差異が認められる。然し乍ら、特に、有霜期に於ける気候要素と本症死亡率は、密室な関係を有し、就中、土壌の生成と植生とに重大な関係のある気温と降水量及び、両者の綜合たるLang氏の雨量温度係数とは、全年及び有霜期間に於いて、全国的にみても、東北西南両日本別に見ても、或は又代表県的に就いて、市郡別に見ても、何れも逆相関の傾向が認められる。尚旦、本邦に於ける農業気象上よりみれば、特に麦類生産と関係深い気候要素と本邦死亡率との関係が密接である(第2・0表、第2・0図、第2・1図参照)。B.次で、本邦死亡率の地域的差異と地形、地質、土壌反応との間には、夫々密接な関係があり、特に当該地域を灌がいする河川の受水地域の地質との関係を併せ考慮すれば、地質との関係が密接である(第3・0図、第3・1図参照) C.更に又、死亡率の地域的差異と農業経営状態との相関も、Fossa Magnaを境として、東北日本と西南日本で大きく異なり東西両地域に於いてかなりの差異があることを示している。特に西南日本で生産されることの多い麦類生産に関係のある水田裏作麦類作府面積比率等、農業生産的立地条件との相関が顕著である。尚又、米作並に麦作に伴う施肥量の多寡乃至施肥連用とも関係あるものの如く推定される(第4・0表、第4・1図4・2図参照)。(3)本症死亡率の地域的差異と脳卒中死亡率との地域的相関をみるに、地体構造区分別にみれば、一般に逆相関の傾向を示し、東北日本に於いて、その傾向が特に顕著である、地域系統別に見れば、本調査地域内では一般的に云って火成岩(火山岩、深成岩)と水成岩(古生層、特に石灰岩)地域によつて両疾患の地域的相関傾向が異なり、火成岩地域では逆相関、水成岩地域では順相関の傾向にあるものの如く認められる(第5・0図参照)。以上本邦肝硬変症死亡率と気候、地形、地質、土壌及び農業経営状態等、「地体構造区分」を中心とした生活環境諸因子との間に認められる諸種の相関は、要するに「土地」を生産要素と見なした場合、肝硬変症と土壌との間に、直接間接に密接な関係あることを示唆するものと考えられる。