山口医学

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山口医学 Volume 7 Issue 5
published_at 1958-09

Epidemiological Studies of the Possible Relationship between Soils and Cerebral Apoplexy Mortalities in Japan. : Part 5. Relationship between Seasonal Variation of Cerebral Apoplexy Mortality and Mean Temperature, Especially Rainfall.

本邦脳卒中死亡率と土壌との関連性についての疫学的研究 : 第5篇 脳卒中死亡率の季節的変動と気温特に降水量との関係
Ueno Sekio
Descriptions
過去56年間(明冶33~昭和30年)に於ける本邦脳卒中死亡率の年次的月次的変動と気温特に降水量との関係、或は又、気温と降水量との関係、若しくは降水量と河川水質との関係、更に又、降水量との関係、若しくは降水量と河川水質並に本症死亡率との月次的関係等綜合考察し、上述せるところを要約すれば次の如き事項が認められる。 (1)本症死亡率の地域的差異と年平均気温並に年降水量との間には、原年次系列に於いても、趨勢を除去したものに就いても、更に又、趨勢変化に於いても、何れも夫々逆相関の関係が認められる(第1・0図及び第1表参照)。 (2)本症死亡率の地域的差異と年平均気温並に年降水量との間にも亦、一般的傾向としては、夫々逆相関の関係が認められる(第1表並に第3・2図参照)。 (3)本症死亡率と月別死亡率の季節的変動(変異係数)との間には逆相関関係があって、本症死亡率の大なる年次(または地域)程月別死亡率の季節的変動(変異係数)が小さくなる(第1・2図、第1・1図及び第1表参照)。 (4)気温と降水量との間にも密接な関係があって、年降水量が大なる年次(または地域)程年平均気温が高く、月降水量の季節的変動(変異係数)が大で、月平均気温の季節的変動(変異係数)が小さくなる(第1表参照)。 (5)そこで、本症月別死亡率の季節的変動の年次的推移と月平均並に月降水量の季節的変動との間には密接な関係が成立し、月別降水量の季節的変動が大なる年次程月平均気温の季節的変動は小さく、本症月別死亡率の季節的変動が大となつて、年間死亡率は低くなる(第2・0~2・1図、第1・1図、第2・2図及び第1表参照)。 (6)また、本症月別死亡率の季節的変動の地域的差異と月別降水量並に月平均気温の季節的変動との間にも亦、前項と同様の関係があって、月別降水量の季節的変動が大なる地域程、月別平均気温の季節的変動は小さくなり、本症月別死亡率の季節的変動は大であるが、年間死亡率は低くなる(第1・2図及び第1表参照)。 (7)更に又、本症月別死亡率の季節的変動の年次的推移を通覧すると、明冶・大正時代には夏と冬の双峯型であつたが、昭和初期以降近年に至るに従って冬の山のみの単峯型となって、近年に至る程季節的変動の振幅が増大している(2・0~2・1図参照)。 (8)而して、上述の如き本症月別死亡率の季節的変動の年次的推移は、本症と関係深く、土地集積性の点でも共通類似性の多い「心」及び「腎」の月別死亡率の季節的変動曲線の綜合と相一致し、本症と体質的に相反するものがあるといわれ、土地集積の点でも対蹠的関係にある結核、癌及び肝硬変症の月別死亡率の季節的変動曲線の年次的推移とは対蹠的なものがあるが、明冶・大正時代(有機質肥料時代)と昭和時代(無機質肥料時代)で季節的変動の様相が異なる点では、何れの疾患でも軌を同じくしている(第2・0~2・1図参照)。 (9)要之、本症月別死亡率の季節的変動と月平均気温並に月降水量との関係は、明冶・大正時代と昭和時代で聊さか様相が異なるのみならず、何れの地域でも、何れの季節でも全て同意義的のものとは認められず、降水量には気温特に湿度、気塊交換、気圧等と密接な関係があるというが如き気候要素としての直接的な気候刺戟の外に、本症死亡率と重大な関係のある河川水成分を年次的特に季節的に変動せしめるという副次的な作用が随伴していることにも或る種の意義があるものの如く解される節が少なくないことは、今後研究に値する問題であろう(第3・0~3・2図、第1・1図、第4・0図及び第5・0~5・4図参照)。