山口医学

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山口医学 Volume 7 Issue 3
published_at 1958-06

Epidemiological Studies on the Dysentery Fatalities in Japan : Part 1. Yearly Trend and Distribution of Dysentery Fatality in Japan.

本邦赤痢致命率の疫学的研究 : 第1篇本邦赤痢致命率の年次的推移と地域的差異
Nakayama Masako
Descriptions
過去75ヵ年間(1880~1954)における本邦赤痢の罹患率特に致命率の時間的、地理的及び生物学的3疫学的現象を、統計疫学的に綜合考察し次の如き事項を認めた。(1)本邦赤痢流行の世紀波(Secular Trend)の週期は、従来、山岸教授によつて凡そ50ヶ年と推定されているが、これは罹患率のみについての考察であって、罹患率と致命率の両者よりこれを見れば、凡そ60ヵ年(1893~1953)と推定することがよりだとなるものの如く認められる。(2)而して、上述の世紀波の週期内における趨勢変化(Trend)は、前期の凡そ50年間(1893~1923)即ち罹患率が逓増し、致命率が逓減した両時代に大別される(第1・0図a)。(3)更にまた、上述の趨勢変化の周期内における循環変動は(Cyclic Variation)は1893年以降、各地方によつて循環変動の発現年次に1~2年のずれがあるが、各地方とも概ね8±1年の週期で変動しているために、全国的に見れば概ね15±2年の間隔で循環変動の週期が重積する地方が相対的に多く、結果的には凡そ15年毎に稍大規模の赤痢流行が認められるに至り(附表3.a,b~4.a,b)。第Ⅰ期(1893~1905) : 罹患率と死亡率が平行的に逓減し、致命率が安定していた時代。 第Ⅱ期(1906~1923) : 罹患率が逓減し、死亡率は逓増し、致命率が抛物線的に増加した時代。第Ⅲ期(1924~1939) : 罹患率が逓増し、死亡率は左程急激に逓増せず、致命率が抛物線的に減少した時代。第Ⅳ期(1940~1953) : 罹患率の年次的変動が著明で、而も逓減の傾向を辿り、死亡率もまた同様の傾向を示しながらより著明に逓減し、致命率の逓減率が著明となった時代。以上の4時代に区分されるに至っているものと解される。(4)而して、年次的に見た罹患率と致命率との相対的関係は、時代によって異なり、上述の世紀波の前期では順相関の傾向を示し、後期では明らかな逆相関関係にあることが主な相違点である(第2.3~2.5図)。(5)本邦赤痢罹患率の相対的な地域的差異は、時代的に左程急激に変動せず概ね一定の地域差を示し(地域不変動性)、西南日本の諸県に高率で、東北日本の諸県に低率である。(6)然しながら、過去75年間終始同じような地域差を示すものでなく、罹患率致命率に趨勢変化の現れた大正末期から昭和初期を境としてその前後の両時代と、日露戦争並に第二次大戦前後においては、爾他の時代に比し稍大なる地域変動がみとめられる(第3.0図)。(7)本邦赤痢致命率についても罹患率と同様に前第(5)及び(6)項の如き地域不変動性とその時代的変動が認められるが、地域不変動性の程度が罹患率に比し遥かに大なることを特徴とする(第2.2図及び第4.0~4.1図)。(8)而して上述の本邦赤痢罹患率の相対的地域的差異と致命率の相対的地域的差異は、大勢において概ね相一致し両者は順相関の関係にある(第5.0図)。(9)本邦赤痢罹患率と致命率の年令階級別分布曲線を見るに、男女ともに一般に乳幼児期(0~4才)には罹患率、致命率ともに最も高く、青少年期(10~19才)には罹患率は稍高くとも致命率が特に低く、老年期(60才以上)では罹患率、致命率ともに乳幼児期に次いで高い。(10)而して、致命率の時代的変遷を見るに青壮年期逐年減少し、乳幼児期並に老年期は左程全焼せず、青壮年期以降年令の長ずるに従い致命率が直線的に上昇する傾向が認められる。斯る傾向は本邦よりアメリカにおいて、時代的により早くその程度も大で、本邦でも農村よりも年において斯る傾向がより早くより大なる程度を以て現れている(第6.0~6.3図)。(11)以上、第(2)項で述べた趨勢変化の現れる年次、或は第(5)(6)(7)項で述べた地域不変動性乃至変動性、更に又、第(9)及び(10)項で述べた致命率が青壮年期以降直線的に上昇すること等の諸事実は、腸チフスの致命率や脳卒中、癌、心臓、腎臓疾患等の老人性疾患の死亡率についても共通に認められる事実である。(12)要之、本邦赤痢の罹患率と致命率の生物学的、時間的及び地理的疫学的3現象には諸種の特性が認められるが、これを綜合考察すれば、本疾患の罹患率特に致命率の年次的推移と地域的差異を支配せる要因の一つとして、従来、検討されてきた届出や医療の普及度との関係若しくは細菌免疫学的要因のほかに、宿主側の素因乃至体質の問題が存在するものの如く推論される。