Journal of East Asian studies

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Journal of East Asian studies Volume 16
published_at 2018-03

Uchida Hyakken's tora : exploring the “prelingual” world

内田百閒「虎」論 : 〈言葉以前〉への志向
Kateryna Olha
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1.73 MB
D300016000006.pdf
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内田百閒の「虎」という短編小説の特徴は、タイトルで示されている動物が直接に登場しないということである。そこにこそ大きい意味があり、本小説を読み解く鍵があると考える筆者は、小説中の虎をどのように理解すればいいかという問題を踏まえ、虎の〈分からなさ〉について考察していきたい。語り手は以前虎に出会ったことがあると強調しているが、特別な表現方法に妨げられ、読者はその経験について確かな情報を手に入れられない。空間の語り方も、一見したところ、具体的な描写に見えるが、使われている言葉は読者の理解には役に立たないため、読者はその場所についても確かな情報を持たない。このように読者は完全な〈分からなさ〉の迷路に迷い込み、不安と恐怖を覚えることとなる。本論ではこうした事情を踏まえ、〈言葉〉で示されている語り手の過去、経験、時間、空間とそれらの言葉の奥にある内容不足、さらにまた、虎という言葉とそれで表される何かの間の埋めようのない落差は何を表しているか、ということについて論じたい。