Bulletin of the Faculty of Education, Yamaguchi University Volume 73
published_at 2024-01-31
本論は、日本近代文学館に所蔵されている「武田泰淳コレクション」における未発表の草稿類資料「原稿 天命」(資料番号 T0056535)などを考察対象として取り上げ、草稿と初出本文との異同を検討することで、「聖王」「悪王」像が明確化され、美姫たちが格上げされ、「幸福な重耳」と「天命」が削除されたというテキストの生成過程を明らかにした。生成過程を踏まえ、改稿の時代背景から武田の「気持」を理解し、具体的に武田が「悠久なものがなぜほしかったか」、即ち本小説における「悠久のもの」(中国古典)の「現代」的意義を検討した。本小説において「悠久のもの」の「現代」的意義は、動乱の1960年代に面して、武田が「現実のきびしさを考える場合に」、「悠久のもの」から「よりどころとなり得るもの」である「徳」あるいは「王者(徳の高い人)」を追究し、「武力と悪知恵ではなくて、徳によっておさめられる静かな国」を強調し、中国古典を通して「現代」の難題を問い直したことであると思われる。