『白い人』はカトリック教徒として育てられた「私」が「悪」と化し、神学生であるジャックと戦った過去の自分を回想する手記である。先行研究には、「私」の幼年時代に関する記録を単にサディズムと総括したり、神を拒否しつつ同時に求める「私」の態度を「矛盾」と捉えるものもある。これらに対して、本論では、手記で語られた過去の事件に即し、具体的に父と母が「私」に与えた影響を分析した。そして、一見したところ神を拒否するかに見える「私」の行動も、実はすべて神への求愛であり、神の顕現を要求する行為であることを明らかにした。更に、ジャックが自殺する行為の意味を追求することよて、真の信仰とは教義を受動的に守ることではなく、何が神の愛であり、善であるのを、能動的な姿勢で問い続けることこそが求められているという解釈に到達した。ジャックの死を経験し、神の愛を自覚した語り手「私」は、この後「拷問者」として生き続けることを決心する。それは、真の信仰の表れとしての能動的な生の姿勢である、というのが本論の解釈である。