1980年代半ば以降、中国では全国的に家電用品、食品、医薬品、車両等の欠陥による消費者の死傷事件等が多発する傾向にあり、深刻な社会問題になっている。また、1990年代に入り、外国企業の中国への進出が活発になり、中国の対外貿易が拡大するに伴って、国内外の製造物が、国内だけではなく、外国でも欠陥を理由とする紛争が発生する件数も急速に増大し、そのなかでも日本との間の紛争が多いと言われている。本論文は植木哲著、謝志宇訳「中国製造物責任比較」『外国法評訳』(1995)、梁慧星著、小口彦太、陶雲明共訳「中国の製造物責任法」『比較法学』29巻1号、洪庚明「中国製造物責任の研究」『法政論集』(2000年)、馬俊駒著、王黎明訳、「中国における製造物責任の研究-中華人民共和国製品品質法を中心にして-」『横浜国際経済法律学』(2004年)、三木浩一、柳陽「中国の製造物責任訴訟における立証活動をめぐる現状と課題」『国際商事法務』(2007)などの研究成果をふまえつつ、中国における製造物責任に関する法制度の生い立ち、製品品質の監督、生産者・販売者の製品品質に対する責任および義務、欠陥の認定、免責事由、損害賠償、訴訟時効など、むしろ「製品品質法を中心とする製造物責任法制」とすべき内容を紹介し、これらに対して中国法曹界における論争と実務上発生した製造物責任による消費者紛争事案のいくつかを具体的に挙げて解説・分析しつつ、日本における製造物の欠陥によって発生した類似の事案や、製造物責任法の関連規定と対比させ、理論的、実証的、比較法的検討を加えながら、中国製造物責任に関する立法と司法の整備に向けて得られるべき示唆を探求してみたい。