農家への資金供給の不足を解決するために、農村信用社による農家に対する無担保の少額貸付-農家少額貸付が1999年から徐々に実施されており、注目を集めている。筆者は、内モンゴル自治区における実地調査で得られたデータを元に、農家少額貸付の実態に迫った。農家少額貸付は信用調査に基づいて行われている。この信用調査は信用社だけでなく、地域の行政機関を動員して行われる大規模なものであり、それによって予め「信用戸」を選定し、主に農家の「換金できる資産」によって信用戸の格付けを決め、貸付の「枠」を与えるという独特の方式を採っている。こうした信用調査は、次のような調査をめぐるインセンティブ構造によって、上手く実施されている。まず、地域の行政組織にとっては、行政指令のほかに、農村信用社の信用調査に協力する経済上のインセンティブがある。また、貸付員に対しては、貸出額や回収率を賃金に反映する三包一掛の政策が実施されている。さらに、全住民や信用戸にとっては、信用村(郷・鎮)になる利益というインセンティブがある。以上のインセンティブ構造によって、農家情報の非対称性が克服された。これらの情報に基づいて、まず、貸倒れリスクの高い農家を信用戸から排除するように、信用戸の判定が行われており、また、貸倒れリスクを減少するために信用戸の格付けがなされ、貸付額が農家返済能力範囲により低く抑えられている。これらの貸出前の貸倒れ防止策に加え、実際の農家少額貸付の高返済率は、借り手農家に返済を促すインセンティブと圧力によって実現されている。信用調査に基づいて行われる農家少額貸付は、「信用枠」方式によって低い利子率できわめて簡単に行われ、急速に普及し、中国農家の約3割がこの制度の恩恵を受けている。しかし、農業の不確実性を「換金できる資産」によって回避しようとしたため、信用戸となる条件(換金できる資産)が高く設定され、貸付上限が農家の換金できる資産より低く決められている。