本稿の目的は、中国現代社会における出稼ぎ労働者いわゆる「農民工」との関連で、中国の戸籍管理制度の成り立ち、構造特徴及び改革とその方向性を分析し、戸籍管理制度の独特性を明らかにすることにある。主な分析結果は、次のように要約できる。(1)歴史的な観点からみれば、中国の戸籍管理制度は国家戦略を達成するため、有効な政策手段として一定の役割を果たしたことが認められる。(2)中国の戸籍管理制度は、a)国内において政府による国家資源と既得権益の配分基準、b)戸籍の閉鎖性と世襲制、c)厳格な制度体系と複雑な管理機能という3つの主要特性を持っている。(3)戸籍制度には、先天的要素による社会階層の管理、社会的流動メカニズムの妨害と社会的資源の配分に関わる「付加機能」という戸籍制度の3つの弊害があり、その改革が求められている。(4)この制度の実施結果である二元戸籍管理制度から生じた二元化社会は「農民工」を不利な立場に追い込む主因でもある。(5)戸籍に多様な「社会機能」が付随することは中国戸籍管理制度の主要な特徴の1つであり、「農民工」問題を解決するには戸籍制度を含む総合的な改革施策を講ずる必要がある。