半世紀前の中華民国憲法はアメリカの最高裁判所をモデルとし、最高司法機関たる司法院に大法官を設け憲法解釈権を委ねることとしたが、当時既存の最高法院などの終審裁判機関が司法院に合併されなかった結果、大法官は具体的な裁判を担当する裁判官でなくなり、その役割も専ら憲法解釈や法令統一解釈を行うことに至った。この歴史的な流れを受け継ぐのは、1952年から台湾で再出発し、50年の軌跡を歩んできた大法官憲法解釈制度である。その特質を問うために、本稿は憲法解釈権の内部構造、即ち憲法解釈権そのものに対する分析に止まらず、違憲審査権と司法権の関連付けを憲法解釈権の外部構造として位置づける。(1)内部構造の面では、大法官の憲法解釈を概ね憲法疑義解釈、職権争議解釈及び違憲審査解釈に分けて類型化することができる。違憲審査の場合は、その憲法解釈は一般的拘束力をもつと解釈されたために、規範形成(消極的立法作用)の機能も可能であるが、憲法疑義解釈の場合は、違憲審査の機能を果すものも見出される。一方、職権争議解釈は裁判のような紛争解決の機能によりも、むしろ憲法疑義解釈と同じく規範形成の機能に傾いている。 (2)外部構造の面では、憲法解釈権は具体的裁判を離れて抽象的に運用されている他、その手続も裁判的構造を採用しておらず、論理的に司法権本来の作用と異なる。従って、憲法裁判制度との距離を測定する平面では、その隔たりが根本的に憲法解釈権の外部構造に見出される。それによる司法権の独立及び憲法解釈制度の問題性は司法院の裁判機関化の動きに相まって、大法官憲法解釈制度の憲法裁判制度化を示唆している。(3)台湾の違憲審査制の性格は基本的に抽象的違憲審査制とはいえるが、他方、それを内包する大法官憲法解釈制度は憲法解釈権の特殊な内部構造によって、「超立法権」、「超司法権」の性格を帯びており、権力分立の原則に齟齬する問題性がある。また、憲法解釈権の機能展開及び外部構造変動に伴い、その性格が転換しつつある歴史性をもっている。