本稿は中国の上海証券取引所で上場している企業をサンプルとし、これらの企業が1994年から1999年の間において、利益および簿価の価値関連性(value-relevance)の時間的推移を検討したものである。分析の結果、多くの先行研究の結果と同様に、中国の証券市場における利益および簿価を含む全体的説明力は時系列において、減少傾向にあることが明らかになった。それを解釈するための一つの仮説は、中国証券市場における高い投機性によるものである。高い投機性の中国証券市場では、もはや財務情報からの利益および簿価の数値より株価が推定されるわけでなく、キャピタル・ゲインが求められ、実際経済における利益と簿価の数字と連動しない株価が形成されると考えることができる。また、もう一つの仮説としては、中国企業の粉飾決済問題がかねてから広くいわれている問題であり、公表されていない情報に基づいて株価形成が行われている可能性がある。さらに、先行研究の結果の分析によって、会計情報の価値関連性の低下は中国証券市場で起こる現象だけではないことは明らかであった。また、本稿の結果として、利益の追加的説明力の減少傾向は明白になり、利益および簿価の追加的説明力はトレード・オフの関係にあることが見られる。その結果を検討するため、本稿では、先行研究の中において、利益の価値関連性の減少についての解釈および利益と簿価の追加的説明力の関係に関する記述をレビューした。先行研究によると、負の利益および非経常的項目(nonrecurring items)が利益の価値関連性に負の影響を与え、また、利益が負、あるいは非経常的項目を含んでいる場合、簿価の方が影響力をもつようになる。そこで本稿では、上海証券市場にあるB株の赤字企業の1994年から1999年までの会社数および比率を時系列で検討した。その結果、赤字企業が年々増えてきていることはわかった。中国の赤字企業の増加は、中国証券市場における利益の追加的説明力の低下、および利益と簿価の追加的説明力のトレード・オフ関係にあることを少なくとも一部分解釈できよう。それはまた、先行研究に対して、追加的証拠を与えることになろう。