日常会話で,発話者は,相手との上下親疎関係により,常体を使ったり,敬体を使ったりしてコミュニケーションする. 主に敬語表現を使うか否かによって,相手との待遇関係が反映される.また,発話者の多くは,言いよどみなくしゃべるのではなく,「あの(ー)」や「ま(ー)」などを発しながら発話する.「あの(ー)」「ま(ー)」などの一見無意味な語の存在は,書き言葉には見られない話し言葉の特徴の一つであり,それは伝統的な国語学では「感動詞」「間投詞」と呼ばれるが,その詳細な研究は近年になって始まったばかりである. 本稿では,コミュニケーションする際に,相手との待遇差が敬語表現を使うか否かだけではなく,「あの(ー)」「ま(ー)」などのフィラーにも現れることを主張する.特に,自然談話に現れるフィラーの「ま(ー)」を観察し,相手との上下親疎関係によって,待遇差がフィラーに現れることを検証する.その結果,統語的には「ま(ー)」の前の要素が独立性の高い場合に,談話的には「ま(ー)」の前の要素が談話運営上発話者に有利になるように機能する場合に,「ま(ー)」に待遇差が反映されることが判明した