地域農家群全体としての経営発展は、まず先駆的革新農家、次いで部分的模倣農家群の個別的経営条件への創造的調整、最後に全面的模倣農家群への普及によって推進されていく。粗放的生産段階にある内モンゴル牧畜業を近代的生産段階に移行させるためには、こうした経営革新の創造、普及が必要となる。本研究の目的は、内モンゴル牧畜業における経営革新の課題を明らかにすることにある。古典的経営革新の理論を内モンゴル牧戸経営に援用し、実証分析を行った。まず数量化理論2類による分析では、経営成果である粗収益の規定要因を明らかにした。収益拡大は知識・技術、先進技術と管理方法に対する理解といった経営管理技術と他の牧戸との協調労働が大切であって、単にやる気だけでは収益拡大につながらない。次に事例分析では、経営革新の展開過程について考察してきた。経営革新を実践した牧戸は知識・技術、経営要素資本、および経営管理技術といった経営者能力を充分兼ね備えている。一方、経営革新が遅れた牧戸は、経営要素資本の不足に加え、知識・技術、経営管理技術の制約で経営革新の模倣ができずにいることも明らかとなった。このように内モンゴル牧畜業にとっては、先駆的経営革新を如何に多く育成し、普及していくことかが大きな課題となるが、とりわけ、経営革新を創造する先駆的牧戸の育成、経営革新を模倣する牧戸への指導支援が重要な課題となる。