本稿は、日本法を意識しながら、中国の国家賠償における精神的損害賠償制度に特化し、当該制度を全面的に考察・分析・紹介しようとするものである。中国の国家賠償法は、1994年において、救済対象となる精神的損害を正式に定めたものの、人身自由権の侵害に限られ、その救済方法も「影響の除去、名誉の回復及び謝罪」に限定し、金銭賠償は認めなかった。また、精神的損害の慰謝料(「精神損害撫慰金」)を取り入れた2010年の法改正を経ても、精神的損害賠償請求権が、依然として3条、17条とリンクされており、独立した救済制度とはなっていない。本来、人身権や財産権と対等であるはずの人格権を人身権などに依存する権利に矮小化し、人格権の法律における地位を低下させるのではないかと危惧される。精神的損害賠償の範囲が狭く限定されていること、「影響の除去、名誉の回復及び謝罪」という救済方式の形骸化、精神的損害賠償の計算基準の不明確などを克服させるためには、今後適時に国家賠償法に対する改正作業や司法解釈の制定を提言している。