本研究は、中国における都市住民の社会的資本、精神的健康の現状、および両者の関連を検討することを目的とする。分析に用いるデータは、浙江省杭州市の住民を対象に行った質問紙調査(N=751)により得たものである。記述統計および重回帰分析の結果、①住民の杜会的資本は、2006年に実施した福建省の都市住民よりは少ないこと、②住民は精神的には健康な状態にあるとはいえず、メンタルへルスが損なわれた状態を顕著に示していること、③住民の社会的資本を構成する変数としての、住民のパーソナルネットワークの規模と参加するフォーマルな団体の規模は、精神的健康の水準と有意な相関を示していないが、人々に対する信頼は、精神的健康の水準と有意な相関を示し、信頼度が高いほど、精神的健康の水準が高くなること、の3つの知見を得た。3つの知見は、1978年以降、急速に進んできた工業化、都市化した、中国独自の社会構造の各方面にわたる変化によるものである。