Bulletin of Yamaguchi Science Research Center

山口大学山口学研究センター

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研究報告(2019 年度採択プロジェクト)
農産物の多くは、その時代にあった新しい品種に置き換えられ栽培が行われてきた。その一つにカンキツがあり、現在、国内で最も栽培されているカンキツ品種はウンシュウであるが、明治初期にはミカン(蜜柑)、コウジ(柑子)に次いでクネンボ(九年母)が多く、クネンボの生産額は山口県が全国一であった。しかし、今ではクネンボ(Citrus nobilis varkunep)の名前を知る人もほとんどいない幻のミカンとなり、県内でクネンボの樹があるのかさえ分かっていない。このカンキツは、江戸から明治期の食文化を考える上で重要な農産物でもあり、当時の長州と英国との異文化交流などを知ることができる貴重な食材の一つなっている。クネンボを地域の資源として現代に復元させるために、県内の品種不明のカンキツからクネンボのスクリーニングを行った。天保期の長州藩の地誌『防長風土注進案』に記載されたカンキツの地理情報や史料、気象条件などからクネンボの探索地域を3 か所に絞り込み、次いでDNAマーカーであるCAPS(Cleaved Amplified PolymeraseSequence)を用いて農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)で保存されているクネンボ(NIAS Genebank, JP 117387)と県内に自生している品種不明カンキツのゲノムDNA の多型を比較することでクネンボの探索を行った。品種同定のために既存のカンキツ112 種を識別できる7 種のCAPS からなる最少マーカーセットを選抜し、次いでアレルの組合せが多様な交雑種からでもクネンボを識別させるために5CAPS を加えたマーカーセットを使用した。しかしながら、採取したすべてのサンプルにおいてクネンボを見出すことはできなかった。特に萩地域では、品種不明のカンキツの多くが小型のナツダイダイであり、長州藩家臣の屋敷跡地や植栽図で200 年以内に確実にクネンボが植えられていた園庭であっても、クネンボを見出すことはできなかった。一方、宗像大社の祭事で用いられてきたクネンボは、農研機構と同じ遺伝子型を示した。これらの結果は、ゲノムサイエンスにより、今まで曖昧であった地域の農産物などの品種を特定すると共に、かつてはその地域を代表する農産物でありながら現在では入手困難な農産物であっても、DNA 多型を調べることで「埋もれた地域資源」を掘り起こし、復活させることができることを示唆していた。
Shibata Masaru Higuchi Naoki Motomizu Arito Okazaki Yoshio Nishioka Mari Goto Yoshiko
PP. 1 - 9
2019 年からスタートした山口学研究プロジェクト「SDGs によるスポーツ観光資源の開発」をベースとして、2020 年に応募した観光庁の中核人材育成事業「SDGs による山口県のスポーツ観光講座」が採択され、山口大学で講座を開講した。講座は山口県内の自然資源やスポーツ資源を活用して、アフターコロナでの観光およびスポーツの推進を目指す人材を育成するものである。ここでは、2年間の観光庁講座とスタッフで編成したユニットチームで実施した「ユニバーサルツーリズムと車いす」の実践報告も交え報告する。
Nishio Tatsuru Hashimoto Funa Kidera Kodai Naruo Yuki
PP. 10 - 16
本稿は山口大学研究推進体「人と移動研究推進体」、及び、山口大学山口学研究プロジェクト「山口県におけるハワイ移民のビックデータ解析と新規事業の創出」が、英語作家ジャック・ロンドン(Jack London)研究における謎を解明したことの報告である。
ロンドンは以下の3点から日本との関わりが深い作家である。(1)日本についての作品や記事を発表している。(2)日本関連の作品を発表したラフカディオ・ハーン(Lafcadio Hearn, 小泉八雲)に関心を持ち、ロンドンの創作活動にその影響が伺える。(3)多くの日本人労働者を雇っていた。上記(2)はこれまでほとんど研究されていない。また、(3)は研究されてきたが、日本人労働者の中でロンドンと最も深く親交した中田由松については全く解明されていない。
上記2種研究プロジェクトにおいて、論者は山口県大島郡周防大島町沖家室島の機関誌『かむろ』の文学・文化表象について研究を進め、その過程で中田由松についての情報を入手した。この発見はロンドン作品における異文化表象の研究に、新たな知見をもたらすものである。さらに、これまで十分に考察されてこなかった、ロンドン作品の異文化表象における、ロンドンのハーン作品受容の影響を考察する上で、有効な視座となりうる。これらの点において、この発見は今後のロンドン作品研究に新たな展開をもたらすことが期待される。
また、『かむろ』の研究はこれまで(山口大学においては)十分になされてこなかった。さらに、散見するこれまでの『かむろ』研究では、『かむろ』を主に歴史・社会的資料として取り扱ってきた。今回の発見は『かむろ』が文化・文学的資源でもあることを示すものであると同時に、山口大学が山口の歴史・文化的資源に積極的に取り組んでいることを示すものでもある。
PP. 17 - 20
山口の自然は、約46億年の地球の歴史の産物であり、地球の記憶を蓄積している。自然を眺めるだけの存在から、その記憶をひもとき、未来へ役立てる存在へとする活動に、ジオパークがある。ジオパークはユネスコの正式プログラムであり、地球の遺産を学び、守り、活用する活動である。山口県には2つのジオパークがあり、地質遺産を活用し、教育・保全を実施しながら、持続可能な開発を模索している。この2つのジオパークを中心に、山口県の自然について地球の記憶をひもとき、地球目線で自然を学び、楽しむ意義について考察した。
PP. 21 - 47