本稿は、宗教という言葉がいろいろな側面、定義、解釈、見方があって理解しにくくなったいま、改めて「宗教とは何か?」ということを、一定の視点から問い直そうと試みるものである。ここでは宗教は、一方では人間にとっての普遍的な心の機能・メカニズムとして位置づけ、他方では個々の固有な文化現象として捉え、ダイナミックかつ包括的・本質的な視点に依拠する。筆者はそれを、認知宗教学的なアプローチと呼んでいる。こうした課題とアプローチそのものを明らかにするため、本稿の前半では、宗教そのものではなく、宗教と密接な関係にある、次のような人間現象に注目しつつ、宗教との関係を探ってみた。すなわち「宗教と言語」「宗教と芸術」「宗教と国家」「宗教と暴力」「宗教と歴史」「宗教と○○教」である。そしてこれらの考察から、宗教の正体に近づくさらなる試みとして、「宗教の起源」について若干の探究を加えた。本稿の後半では、ある程度の輪郭が見えた、宗教の漠然とした正体とそれに接近する妥当なアプローチと思われる認知宗教学に、一定の具体性を見るため、身近なケースとしての「人と動物との関係」(動物との触れ合いから見る宗教性)について、その実態を幾つかの角度からたどってみた。最後に「宗教とは何か?」という一定の結論を簡潔に提示した。