Journal of East Asian studies

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Journal of East Asian studies Volume 4
published_at 2005-12

A study of the Gi-shi music of Ming dynasty in Edo Japan : six volume music held at Tokyo University of Arts

江戸時代の明楽譜『魏氏楽譜』 : 東京芸術大学所蔵六巻本をめぐって
Piao Chunli
Descriptions
江戸中期から幕末にかけて、日本の漢学者・公家・大名・武家の間では「明楽」がもてはやされた。「明楽」とは、明より伝来した音楽を指す。明和五年(一七六八)には明楽稽古本として『魏氏楽譜』が刊行され、京都・江戸・大阪を中心に広い範囲で流布したが、一巻本で計五十曲の明楽曲を収録したこの楽譜は、文化九年(一八一二)及び明治年間に更に復刻復刊され、今日なお長崎県立図書館など多くの図書館でその内容が確認できる。ところで、刊本『魏氏楽譜』のほかに、抄本の六巻本『魏氏楽譜』が東京芸術大学に所蔵されていることが一九六三年に林謙三氏の「明楽新考」によって紹介されたが、なぜか長い間このことは多くの研究者たちの注意を喚起することがなく、六巻本『魏氏楽譜』はこれまでにその具体的な内容と実態がほとんど解明されないままであった。このような状況の下で、小論は六巻本『魏氏楽譜』に対し、具体的に考察を行うことで、その内容と実態を解明し、六巻本『魏氏楽譜』の成立を考えることによって、そこから導き出される明楽の実相を可能な限り明らかにすることを目的としたものである。考察を行った結果、六巻本『魏氏楽譜』には古楽府、唐詩、唐五代・宋・明の詞、詩楽、宮中祭祀楽、舞楽、仏楽など様々なジャンルの音楽が収録されており、その成立については、詩楽・宮中祭祀楽、舞楽などが宋・明の音楽専門書に由来することがわかった。また、その他の音楽については、一致する楽譜こそ見当たらないものの、明代に流布した『草堂詩余』などの詩詞総集と密接に関わりがあることがわかった。