作物栽培における雑草害や飼料作物を混播する場合などにおこる作物間の生育競合の原因は,従来一般には地上部での遮光や,地下部での養水分の争奪等のかたちで,認識されているが尚充分に究明されていない原因もありうるのではあるまいか。たとえば,ある植物はその体内にある種の阻害物質を含有し,これがその植物の生体や遺体から滲,浸出して他植物の生育を害すると云ったことなどは考えられないものであろうか。これに関連をもった考え方は,忌地の原因を究明する場合にとりあげられ,例えば平井氏はイチヂクの連作の原因として根皮中の有毒物質を想定し,更に福士氏等はこの物質の作用機構についても考察を加えている。又滝島氏はエンドウの培養廃液がその植物の根の生育を阻害することを認め,平吉氏はタマチシャ,トマト,ナス,などの培養廃液中にもこの様な物質のある事実を主張している。其他,ブレーブスチング,キルモア氏は土壌にモゝの根を加えてモゝの実生を栽培した場合その生育が阻害され,又この有害物質は主に根皮中に存在することを認めた。たゞ比等の数例はすべて植物の生育に対して抑制的にはたらく場合であるが,逆に生育を促進する物質の存在について明らかにされたものは未だその例が甚だ少い様である。兎も角,促進,抑制何れにせよ,此等の事実が存在することは,作物栽培上特に前記飼料作物の混播や2作物以上を混作する場合などに甚だ重要な意味をもつことゝなる。斯様な見方から,まづ多数の植物を集めてその地下部の浸出液をつくり,小麦農林61号を材料料として発芽試験を行い,特に幼芽幼根の伸長との関係を観察し上述の可能性をたしかめ様としたところ,稍興味ある結果が得られたので,不取敢その概略を報告したいと思う。尚本実験に協力されたる石田知秀君の労を深謝する。