中学校における音楽科の授業数削減の問題を筆頭に、学校五日制の実施、更には小学校での音楽科・図工科統合による表現科設置の動きの情報など、目下音楽科にとっては自らの存続をかけて教科教育としての意義を主張しなくてはならない重大な時機に来ていることは今更言を待つまでもない。また、筆者自身、国立大学附属小学校に音楽専科担任として在職した経験を持つが、その折、年間を通じて一年生で30時間代、6年生20時間程度しか音楽科の授業時数を確保することができなかったという実例を有する。本来法的根拠であるはずの学習指導要領を逸脱した、この実例からもわかるように、人間形成の基礎段階である小学校において現に音楽科が軽視されていることは遺憾ながら疑いない。ここで人間にとっての音楽というものを人間形成という根源的な視点から再度見直し、音楽が人間にとって少なくとも不利益なものではなく寧ろ人間形成に関して他に代替困難な独自の形成作用を持つということを論理的に明らかにしていくことが、音楽科教育の必要性を訴えることに他ならないと考えるのである。