Journal of East Asian studies

The graduate school of east asian studies, Yamaguchi university

PISSN : 1347-9415
NCID : AA11831154

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Articles
中国では、経済成長に伴って、エネルギー消費も大幅に増加してきた。資源型地域はエネルギーの主要供給地として、中国の工業の支えといっても過言ではないと考えられる。しかし、資源開発により、資源枯渇や産業構造の偏りや経済不況などの問題が出ている。2013年に公表した「全国資源型都市持続可能発展計画(2013-2020年)」では、経済、民生、エネルギー及び環境において、それぞれの支援政策を打ち出した。経済面では、産業構造の多様性、産業高度化、産業クラスター化を通じて、経済成長と産業構造転換を求めた。
本研究では、この支援政策の経済面に着目して、山西省を研究事例として取り上げ、政策効果を実証的に分析した。具体的に、2つの仮説を設定した。第一は、支援政策が経済成長を促進できることである。第二は、支援政策が産業高度化を促進できることである。PSM-DIDという研究手法を用い、山西省の資源型都市と全国の非資源都市に共変量を加えて、マッチングした。そして、マッチング後のデータで、政策効果と共変量の影響効果を検証した。その結果、支援政策は山西省の経済成長を促進できることを証明した。また、産業高度化にも正の効果が出ている。さらに、工業化と環境汚染はトレードオフの関係があることにより、重工業に比べて、環境にやさしい第三次産業を発展させることがより良い効果を生むことが示唆された。もう一つは、政府財政支出が正の効果で、さらに、非資源型都市と資源型都市の差が縮小するのは重要なことから、政府の役割を無視できないことがわかった。
Tong Zhihui
PP. 1 - 21
「深い学び」を展開している子どもの姿を具体化せずには、本質的な授業改善には向かいにくい。本研究では、これまでの総合的な学習の時間(以降、「総合」と表記)を巡る議論や近年の学習論の知見をふまえ、「総合」で目指す「深い学び」の特質を整理し、その定義付けを行った。とりわけ、教育心理学や教育学において1970年代から注目されてきた「ディープラーニング」の概念と文部科学省が考える「深い学び」の比較を通して、「ディープラーニング」と「総合」は、どちらも真正の課題と子どもが向き合い、それらの課題解決に関与することで、自己肯定感や自己有能感を得ていくという類似性を有していることが明らかになった。また、「総合」において重要視されてきた「レスポンシビリティ」の概念は、「総合」の学びのあり方と関連付けて学術的に検討されてきていないため、「レスポンシビリティ」と「深い学び」の関係をとらえていった。そうする中で、「総合」で具現化する子どもの姿を現す鍵となる概念には、「自分ごと」「折り合い」「手応え」も付加されることを導出した。加えて、今後より予測困難で不確実、複雑で曖昧な時代になると予測される中で求められる資質・能力を検討し、改めて「レスポンシビリティ」の重要性を位置付けるとともに、他者の存在や「協働」が「深い学び」の成立条件となることを導出した。さらに、「総合」の先行実践において、「レスポンシビリティ」を果たす子どもの育成を目指していくために、「協働的な学び」を通して、どのような子どもの姿にたどり着くことをねらい、一単位時間の授業が行われてきたのかについて検討した。その検討を通して、「総合」における「協働的な学び」は、「概念」と「方略」の高度化を目指して設定され、「概念の高度化」は「対象や課題に対する概念」「自分や自分のあり方に対する概念」の高度化、「方略の高度化」は「対象や課題の本質への迫り方」「対象(人)や仲間との向き合い方」の高度化に分けられることが明らかになった。
PP. 23 - 49
日本語のスピーチレベルシフトについての研究は盛んに行われてきたといえるが、それらに用いられたデータは友人か初対面かのような親・疎関係の会話や教室における教師と学生の会話、あるいは、前もってセリフが書かれた脚本のものなど、特定の条件を設定した会話からのものが多い。また、接触場面の場合には、取り上げられた対象は留学生に止まり、技能実習生に関するものは管見の及ぶ限り見当たらない。そこで、本稿は技能実習生を対象とし、実習実施機関で生じた自然会話に注目した。具体的には、指示が多く、かつ危険性を伴う鉄骨工場をフィールドとし、技能実習生に向けられた日本人同僚の発話に注目した。
その結果、1)朝礼、会議、送別会は丁寧体を基調としているのに対し、作業現場の発話場面は普通体を基調としている。2)先行研究ではまだ言及されていないが、本研究では、丁寧体基調場面におけるダウンシフトとして、「強い口ぶりで、念を押す時」、「職業規則を明示する時」、普通体基調場面におけるアップシフトとして、「実例を挙げる時」、「相手に同意・共感を示す時」、「1つの作業が終了時の合図」、「説明を諦める時」にもスピーチレベルシフトが観察された。3)機能は、構造標識、談話標識、待遇標識と心的距離の伸縮の4つに分類できる。さらに、4)スピーチレベルシフトには一回性のものと連続性のものがあり、場面によって現れ方が異なっていることが判明した。
Zhang Xuepan
PP. 51 - 74
Structural transformation matters for economic growth and economic development of one country. Industrialization plays a crucial role as its engine. However, it is fact that some countries succeeded in it while others did not. When we compare the ratio of manufacturing value-added to GDP( MVA/GDP) between the successful and failed or stagnant countries, variations of those trajectories are observed. Even among the latter countries, their patters are not uniform. This paper is very keen to the pattern of failures and stagnation of industrialization such as India, Ghana, and Egypt, in which the ratio of MVA/GDP went down, followed by economic, social and political crisis and long stagnation was resulted from in the subsequent periods. It is hypothesized that that pattern has a close relationship with ambitious industrialization vision embarked on by the state leaders and policy makers in a manner which did not meet the reality of the manufacturing sector. Against that hypothesis, to what extent can the existing literatures give us persuasive interpretation? To examine it, this paper will review those one arguing the causes and mechanism of failed and stagnant industrialization and finally reach an argument of the industrialization vision as a possible candidate.
PP. 75 - 108
本研究では、日中一時支援事業所において、クライアントの支援等について悩みを抱え、離職の意向をも示していたコンサルティに対して行動コンサルテーションを実施した。研究開始前のコンサルティは、自身の業務や支援に関して否定的な発言が多く見受けられ、支援に対する自信を失っている状態であった。特に帰宅準備行動に滞りの見られたクライアントへの支援に頭を悩ませていた。また、離職意向も示していたことから、支援遂行自体に嫌悪感を伴っているとも考えられ、少しでも不安や負担感を感じてしまった場合は、支援実施自体を忌避してしまう可能性があった。そこでコンサルタントは、面接回数を最小限としたり、クライアントの行動記録を敢えて実施しない等、コンサルティが負担感を抱かないよう配慮を行った。加えて、「傾聴」と「共感」、そして「肯定」を念頭に置いた言動を徹底して心掛けつつ、コンサルティとの面接を行い、①スケジュール表を作成し、実施した項目に「○」をする、②帰宅準備行動が出来たらほめる、以上の2点の支援を提案した。また、コンサルティとの小面接を4回実施し、コンサルティの支援実施に対して肯定的なフィードバックを積極的に行った。さらにコンサルティの上司に対しては、小報告会において、コンサルティの支援実施に対して肯定的なフィードバックをするよう依頼した。その結果、コンサルティはクライアントへの支援を実施、継続することができ、これに伴ってクライアントのスムーズな帰宅準備行動が生起するようになった。またコンサルティから自身の業務や支援に対して非常に肯定的な発言が連発するようになった。さらに、離職の意向を取り消すまでに至る等、行動コンサルテーションがクライアントの行動上の課題解決のみならず、コンサルティのバーンアウト傾向の軽減、離職防止にも効果がある可能性が示された。
Ueda Takahiro
PP. 109 - 123
人口減少社会の到来により,特に地方において,適正規模での学校運営が難しい過小規模や極小規模の学校が増加傾向にある.このような小規模校では,きめ細やかな指導等が行える一方で,人間関係が固定化しがちであったり,多様な意見や考え方に触れることが少なくなったり等,教育上の課題を抱えている.その解決策の1つとして,複数校の児童生徒が1つの学校に集まって合同授業が実施されているが,時間的・金銭的な問題などから実施回数が制限されるケースが多い.この合同授業を補う形で,日進月歩の勢いで進歩しているICT技術を活用した遠隔合同授業の取組みが期待され,教育実践が進められてきている.そこで本研究では,小規模校・少人数学級における遠隔合同授業を対象にして,学習者の学習活動と教員の教授活動を支援するための遠隔合同授業支援環境を研究開発する.具体的には,学校のネットワークの問題や,対面遠隔の学習者を見とりながら遠隔合同授業を進める教員の負荷を踏まえて,ビデオコミュニケーション機能や遠隔合同授業をシームレスに支援する授業支援機能を有した「つながる授業アプリ」をアジャイル型開発手法によって実装した.さらに,「つながる授業アプリ」の操作・機能評価を行って修正事項を整理して,改善を行った事項について報告する.
Yokoyama Makoto Takaoka Ryo Nakahara Akihiro Yoshinaga Ryota
PP. 125 - 151
1907年のイギリスのスタインをはじめ、列強各国の探検隊が次々と敦煌を訪れた。敦煌文物の発見・流出に伴い、「敦煌学」「西域熱」が誕生し、学界の関心を集めてきた。仏教出身の武田泰淳も長い間にわたってスタインの著作(Ruins of Desert Cathay、Serindiaなど)を含む敦煌資料を耽読し、その分野に進出してみた。本論は武田と敦煌との関係を切口として、日本近代文学館に所蔵されている「武田泰淳コレクション」の中の未発表資料を参考にして、武田文学における唯一の敦煌題材小説「流沙」の典拠資料を整理し武田の英語力を確認した上で、典拠と小説との比較を行い、「節ごと」、「人物ごと」、「全体」という三つの方面から武田泰淳の言う「換骨奪胎」の方法(典拠の利用法)を分析した。
Sun Sen
PP. 153 - 168