山口県における地下水, 温泉或は堰堤, 隊道, 切り取り山体基盤等の調査により次ぎの如き地質学的事象が推定される。(1)瀬戸内海側主要河川の河口附近における旧河床深度が東北方に至るに従い増大し, その両端地域において50m内外の深度差のあることが試錐の結果判明した。(2)洪積期砂礫層により被覆されている海触段丘の標高が東西方向の海岸線に沿って低下している。(3)沖積層中に夾在せられる三層の砂質粘土層が川巾70m内外の両岸において2?6m程深度を異にしている。然して各粘土層の深度差は下部にあるもの程大となっている。(4)温度及び鉱泉の多くは花崗岩類よりなる基盤岩の亀裂又は断層帯より湧出するがそれ等の方向は略東西南北及びその中位のいずれかで地域によって略一定した方向を示している。(5)縄紋, 彌生, 後期古墳各期に属する土器その他の遺物の破片が沖縄層中に介在するがこれ等遺物は地層の上位に至るに従い新期より古期に移化している。(6)標高10m内外の丘陵性台地上に存在する井戸水中にCl'50?10Cmg/lを示す異常地帯が海岸線に沿って各地に散在する。但し山口県下の河水中のCl'含有量は 10mg/l内外である。(7)東京水産大学新野教授により測定された魚群探知機による響難海底探査結果と宇部炭田の海底坑道及び試錐により求めた地質図との比較により現在改定沈積物が顕著な既知断層帯の各断層面側に数米厚く沈積していることが推定せられる。これを要するに山口県の基盤が花崗岩類及び第三紀地層を切る顕著な断層帯に沿って沖積層堆積過程においても尚変動を持続し全体として東北方に傾動していることが推定される。但し以上の事象や推論に対する地質学的根拠の詳細については別の機会にゆずり今回はこれ等の事象を更らに水準測量により求められる地表の緩漫なる変動或は史前遺跡により推定される海陸分布の変還等との関連について記載する。