Epidemiological Studies of the possible Relationship between Soils and Cerebral Apoplexy Mortalities in Japan : Part 3, Relationship between Mineral Constituents in River-Water and Distribution of Cerebral Apoplexy Mortality
山口医学 Volume 6 Issue 2
Page 122-141
published_at 1957-06
Title
本邦脳卒中死亡率と土壌との関連性に就ての疫学的研究 : 第3篇 脳卒中死亡率の地域的差異と河川水の化学的成分との関係
Epidemiological Studies of the possible Relationship between Soils and Cerebral Apoplexy Mortalities in Japan : Part 3, Relationship between Mineral Constituents in River-Water and Distribution of Cerebral Apoplexy Mortality
Creators
Ueno Sekio
Source Identifiers
本邦脳卒中死亡率を全国都道府県別にみた訂正死亡率(1947~1950)と土壌学的に代表的な地域を選んで、市郡別にみた粗死亡率(1948~1954)に就て、それらの地域的差異と当該地域の河川水の化学的成分との関係を追及し、詳述せるところを要約すれば次の如くである。 (1)脳卒中死亡率と土壌のpH並に化学成分的に見て土壌と密接な関係のある河川水のpHとの間には夫々有意の相関が認められ、土壌並に河川水のpHが一般的に中性乃至弱塩基性地域は死亡率が低く、酸性乃至弱塩基性の度を加えるに従つて死亡率が増大する傾向が認められる。(第2・0参照) (2脳卒中死亡率と河川水の過剰塩基(Ca+Ma+Na+K-SO_4-Cl)並に総硬度との関係は、死亡率とpHとの関係と概ね同様の関係にある。このことは過剰塩基と総硬度が何れもpHとの有意の順相関関係にあることと相関連共通するものがあるのみならず、単に過剰塩基や総硬度と死亡率との間に或る種の関係あることを意味する外に、pHとの綜合的関係が検討されなければならないことを示唆するものと解される。(第3・0図AB参照)。 (3)脳卒中死亡率と河川水成分とが単独で全国的に有意の相関を示すものは見当たらず、東北日本でCa,西南日本でNa(但し、危険率10%)があるのみである。然しながら、溶存量比で全国的に有意の順相関を示すものにはNa/Ex.B, Cl/Ex.B, SO_4/Ex.B, Mg/Ca, Na/KSiO_2/Ex.B+SO_4等が挙げられ、有意の逆相関を示すものはCa/SO_4のみである(第6表参照)。他面、脳卒中死亡率とCa+Mg/Ex.B+SO_4との相関は東北、西南日本の何れにおいても有意でないことが特徴である。尚又、上述の各河川水成分の溶存量比とPHとの相関も亦、全国都道府県別に見ても市郡別に見ても何れも優位である。而も斯る傾向は地体構造区分的に見れば東北日本の諸県、地質的に見れば火山岩地帯の諸県において顕著である。(第6表並に第4・0~4・3図参照)。 (4)脳卒中死亡率とCa-Naとの関係は、河川水のpHが酸性乃至中性地域ならばCa>Naなる程死亡率が低く、アルカリ性地帯ならばCa>Naなる程死亡率が増大する等pHとの綜合的関連性が大である(第4・4図A(A))。 (5)脳卒中死亡率とNa/Kとの関係は、一見したところ地帯構造区分や地質によって相関傾向が異なるが、精細に観ればNa/Kの値とpHとは逆相関関係にあることによつて、一般的にいえば死亡率との関係は火山岩系とその他の地質によって大別されて夫々順相関関係にある(第4・4図B(B))。 (6)脳卒中死亡率とCa/Kとの関係も亦、地質によつて一見複雑であるが、Ca/Kの値とpHとが順相関関係にあることによって、一般的には死亡率と逆相関関係にある(第4・4図C(C))。 (7)脳卒中死亡率と河川水のSiO_2(mEq . /L)との間にも密接なる関係が認められ、SiO_2含量が0.9mEq . /L附近において死亡率最も低く、SiO_2量がそれより増減するに従つて塩基性乃至酸性に傾く傾向がある。之を按ずるに、SiO_2含量0.9mEq . /L附近はCaを中心としたMg/Ca, Ca/SO_4, Ca-Na, Ca/K等の無機成分相互の均衡から見れば、一般的に云つてCaが相対的に最大となる地域であること。但し、岡山古生層地帯ではCa量が最低の地域なること。更に又、Caを中心とした無機成分相互の均衡如何とpHとの関係より見れば、SiO_2含有量0.9mEq . /L附近が中性乃至弱塩基性地域で、それよりSiO_2含有量が増減するに従つて、酸性乃至弱塩基性の度を加える地域であることを想えば、この場合も亦SiO_2単独の影響と見放すよりもpHとの綜合的関係がより重大なる関係を持つものの如く認められる(5・0~5・1図)。 要之、本邦脳卒中死亡率と河川水のCaその他の各無機成分並に各成分間の溶存量比との個々の相関関係は、それぞれの単独的な意義の外に、何れも化学成分の綜合的指標たるpHとの相互関連性によつて綜合的に関係するものの如く推論される。 而して、上述の如き本邦脳卒中死亡率の地域的差異と密接なる関係を示した河川水の各科学的成分は、何れも本邦河川水の特性たる「蒸発残渣が少なく、又CaとCO_3が少なく、蒸発残渣が少ないにも拘らず、特にNaとClが多いこと。更に又、成分溶存量比より見ればMg/Caの値が特に大で、次でSO_4/Ex.B, SiO_2/Ex.B+SO_4の値が大きく、Ca+Mg/Ex.B+SO_4の値が小さい」ことと重大な関係があると云い得よう。尚又、此等の河川水質の特性が本邦に火山岩や酸性土壌が特に多いという本邦土壌環境の特性に由来せしものなることを想えば、本症死亡率と個々の河川水の化学的成分との相関は、資料の追加に伴つて修正変更される可能性があるとしても、要するに本邦に脳卒中死亡率が一般に高率なると共に、地域的差異の顕著なることの原因の一つは、主として本邦の土壌に起因するものであるということができよう。 稿を終るに臨み、終始御懇篤なる御指導と御校閲を賜つた野瀬教授に深甚の謝意を表す。尚又、河川水質に関し、貴重な資料を御恵与下さつた東京都立大学理学部半谷高久助教授に岡山大学農学部小林純教授に対し感謝す。尚、本論文要旨は第26回日本衛生学会(昭和31年4月)並に第11回日本公衆衛生学会(昭和31年10月)において発表した。
Languages
jpn
Resource Type
journal article
Publishers
山口県立医科大学医学会
Date Issued
1957-06
File Version
Not Applicable (or Unknown)
Access Rights
metadata only access
Relations
[ISSN]0513-1731
[NCID]AN00243156
Schools
山口県立医科大学