Bulletin of Yamaguchi Science Research Center

山口大学山口学研究センター

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    • PP. -
    • 全国には未利用なオリジナルなカンキツ類が数多く存在している。山口県のオリジナルカンキツの一つに長門大酢(ながとおおず)があり、柑きつ振興センターに1本のみが現存していると考えられている。この幻のカンキツの果実は、大果で果汁が多く、隔年結果を起こしにくいなど、加工や栽培に適した形質を有している。しかし、このような未利用カンキツについて、その価値や有用性などの検討は行われていない。そこで、具体的な利用法を示すために、長門大酢の特徴を生かした料理や菓子、調味料の材料としたレシピの作成を行い、未利用カンキツの有効性について検討した。
      香酸カンキツの長門大酢は上品で爽やかな香りがあり、ユズよりもレモンに近い酸度(4.8%)、糖度(9.4%)、糖酸比(1.97)を示した。一般加工品として、長門大酢胡椒、塩長門大酢、長門大酢のドレッシング、長門大酢ポン酢および長門大酢のはちみつ漬けのレシピを考案した。また、多くの世代に受け入れられるように菓子として、長門大酢ゼリー、長門大酢のレアチーズケーキおよび長門大酢のマドレーヌのレシピを考案した。さらに、より、飲食店でも利用可能な料理として、鶏の唐揚げ長門大酢ソース、アジの長門大酢エスカベッシュ、長門大酢とサーモンのヴァプール クリームソースおよび生搾り長門大酢サワーのレシピを考案した。これらは全て家庭でも作ることができるレシピである。これらの料理から、長門大酢は爽やかな香りと柔らかな酸味を生かした調理ができることが分かった。今後、より幅広いライフステージの人々に受け入れられるレシピの開発を通じて、地域の食材による食育や未利用の農産物の掘り起こしが可能性であることを示した。
      Morinaga Yae Goto Yoshiko Okazaki Yoshio Nishioka Mari Shibata Masaru
      PP. 1 - 7
    • 山口県周防大島町にある日本ハワイ移民資料館には、明治初期にハワイに渡った日本人の記録を蓄積したデータベースがある。電子化された29,730 レコードに及ぶ記録内容を調査し、約4,000 人に及ぶ人々が、山口県の屋代島(以後、周防大島と呼ぶ)からハワイに渡った理由を考察した。また、渡航前住所をGIS(地理情報システム)を用いて周防大島町の地図上に配置し、年別の渡航者分布の拡大の様子や地理情報との関連についても考察した。
      Sugii Manabu Francisco Cruz Guerra Christian Nagai Ryoko Fujiwara Mami
      PP. 8 - 14
    • 山口市大内地区において 2009年7月の豪雨により発生した浸水被害の特徴と土地利用の変遷について解析を行った。本地区は条里型地割が行われている水田地帯で あったが、1898年から約100年の旧版地図・空中写真の解析から、終戦後の1950年頃から水田の転用による宅地や商業地の開発が進んでいた。2009年豪雨による浸水被害は地区全体で450戸に上り、問田川両岸や旧国道262号に挟まれた標高の低い平地で顕著あった。開発にともなう水田の減少は、大内地区における雨水貯留機能を低下させており、本豪雨の浸水被害を大きくした要因の一つとして考えられた。
      Yamamoto Haruhiko Watanabe Yuka Yamamoto Shoko Koba Anna
      PP. 15 - 29
    • 本稿は、コロナ自粛下で停滞した学生コミュニティを再活性化することを目的としたプロジェクト型課題解決研究(Project Based Learning:以下、PBL)の一部である。2021年度にコロナの影響で自宅学習を余儀なくされた現大学生は、地域や大学で自身のコミュニティを形成することが困難であった。そこで、2022年度、対面授業が主となった大学キャンパスを中心に学生の視点からコミュニティを再活性化したいと考えた。私たち学生にとって重要な食事及びコミュニケーションツールでもあるドリンクをキーとして、山口大学生活協同組合(以下、山大生協)の福利厚生施設「FAVO」のカフェ(以下、FAVO café)での試みが学生に与えた影響について報告する。
      Yamamoto Kaho Mukai Riho Terauchi Takato Umibe Haruka Ariba Yukimi Isomoto Amika Ueda Masumi
      PP. 30 - 36
    • 秋芳洞などの鍾乳洞は、共有の財産として適切な保護・保全・活用が行なわなければならない。しかし、鍾乳洞の形状は凹凸に富んで複雑であり、自然光が届かない中でその全貌を把握するのは難しい。本稿では、小型化・低価格化したLiDAR装置を用いて、美祢市秋芳洞・大正洞を計測することを試み、その有効性について検討した。その結果、モバイルLiDAR(Livox社製Avia)による点群データ及び3Dモデルは1963年測量の実測図と整合的であり、その有効性は認められた。しかし、優れた3Dモデルには十分な点群密度が必要である。
      Kagohara Kyoko
      PP. 37 - 44
    • 山口県中部の秋吉石灰岩においては、小澤(1923)が提案した層序の逆転について、決定的な形成モデルが提案されていない。本報告では、最近得られた知見に基づいて、形成モデル構築のための制限条件を検討する。それは、超巨大海山の衝突と生物礁の付加であり、逆転構造の広がりについての新たな地質情報である。また、海溝充填堆積物とされた常森層の形成場についての知見も重要である。これまで、確かな形成モデルが提案されなかったのは、現在の地球上に、秋吉石灰岩の逆転モデルに相当する地質イベントが存在しなかったことが関係している。斉一説に基づいた解釈が困難であったためである。今後は、新たな制約条件の下、新たな形成モデルの構築を図る必要がある。
      Wakita Koji
      PP. 45 - 53
    • PP. -
    • 農産物の多くは、その時代にあった新しい品種に置き換えられ栽培が行われてきた。その一つにカンキツがあり、現在、国内で最も栽培されているカンキツ品種はウンシュウであるが、明治初期にはミカン(蜜柑)、コウジ(柑子)に次いでクネンボ(九年母)が多く、クネンボの生産額は山口県が全国一であった。しかし、今ではクネンボ(Citrus nobilis varkunep)の名前を知る人もほとんどいない幻のミカンとなり、県内でクネンボの樹があるのかさえ分かっていない。このカンキツは、江戸から明治期の食文化を考える上で重要な農産物でもあり、当時の長州と英国との異文化交流などを知ることができる貴重な食材の一つなっている。クネンボを地域の資源として現代に復元させるために、県内の品種不明のカンキツからクネンボのスクリーニングを行った。天保期の長州藩の地誌『防長風土注進案』に記載されたカンキツの地理情報や史料、気象条件などからクネンボの探索地域を3 か所に絞り込み、次いでDNAマーカーであるCAPS(Cleaved Amplified PolymeraseSequence)を用いて農研機構(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構)で保存されているクネンボ(NIAS Genebank, JP 117387)と県内に自生している品種不明カンキツのゲノムDNA の多型を比較することでクネンボの探索を行った。品種同定のために既存のカンキツ112 種を識別できる7 種のCAPS からなる最少マーカーセットを選抜し、次いでアレルの組合せが多様な交雑種からでもクネンボを識別させるために5CAPS を加えたマーカーセットを使用した。しかしながら、採取したすべてのサンプルにおいてクネンボを見出すことはできなかった。特に萩地域では、品種不明のカンキツの多くが小型のナツダイダイであり、長州藩家臣の屋敷跡地や植栽図で200 年以内に確実にクネンボが植えられていた園庭であっても、クネンボを見出すことはできなかった。一方、宗像大社の祭事で用いられてきたクネンボは、農研機構と同じ遺伝子型を示した。これらの結果は、ゲノムサイエンスにより、今まで曖昧であった地域の農産物などの品種を特定すると共に、かつてはその地域を代表する農産物でありながら現在では入手困難な農産物であっても、DNA 多型を調べることで「埋もれた地域資源」を掘り起こし、復活させることができることを示唆していた。
      Shibata Masaru Higuchi Naoki Motomizu Arito Okazaki Yoshio Nishioka Mari Goto Yoshiko
      PP. 1 - 9
    • 2019 年からスタートした山口学研究プロジェクト「SDGs によるスポーツ観光資源の開発」をベースとして、2020 年に応募した観光庁の中核人材育成事業「SDGs による山口県のスポーツ観光講座」が採択され、山口大学で講座を開講した。講座は山口県内の自然資源やスポーツ資源を活用して、アフターコロナでの観光およびスポーツの推進を目指す人材を育成するものである。ここでは、2年間の観光庁講座とスタッフで編成したユニットチームで実施した「ユニバーサルツーリズムと車いす」の実践報告も交え報告する。
      Nishio Tatsuru Hashimoto Funa Kidera Kodai Naruo Yuki
      PP. 10 - 16
    • 本稿は山口大学研究推進体「人と移動研究推進体」、及び、山口大学山口学研究プロジェクト「山口県におけるハワイ移民のビックデータ解析と新規事業の創出」が、英語作家ジャック・ロンドン(Jack London)研究における謎を解明したことの報告である。
      ロンドンは以下の3点から日本との関わりが深い作家である。(1)日本についての作品や記事を発表している。(2)日本関連の作品を発表したラフカディオ・ハーン(Lafcadio Hearn, 小泉八雲)に関心を持ち、ロンドンの創作活動にその影響が伺える。(3)多くの日本人労働者を雇っていた。上記(2)はこれまでほとんど研究されていない。また、(3)は研究されてきたが、日本人労働者の中でロンドンと最も深く親交した中田由松については全く解明されていない。
      上記2種研究プロジェクトにおいて、論者は山口県大島郡周防大島町沖家室島の機関誌『かむろ』の文学・文化表象について研究を進め、その過程で中田由松についての情報を入手した。この発見はロンドン作品における異文化表象の研究に、新たな知見をもたらすものである。さらに、これまで十分に考察されてこなかった、ロンドン作品の異文化表象における、ロンドンのハーン作品受容の影響を考察する上で、有効な視座となりうる。これらの点において、この発見は今後のロンドン作品研究に新たな展開をもたらすことが期待される。
      また、『かむろ』の研究はこれまで(山口大学においては)十分になされてこなかった。さらに、散見するこれまでの『かむろ』研究では、『かむろ』を主に歴史・社会的資料として取り扱ってきた。今回の発見は『かむろ』が文化・文学的資源でもあることを示すものであると同時に、山口大学が山口の歴史・文化的資源に積極的に取り組んでいることを示すものでもある。
      Fujiwara Mami
      PP. 17 - 20
    • 山口の自然は、約46億年の地球の歴史の産物であり、地球の記憶を蓄積している。自然を眺めるだけの存在から、その記憶をひもとき、未来へ役立てる存在へとする活動に、ジオパークがある。ジオパークはユネスコの正式プログラムであり、地球の遺産を学び、守り、活用する活動である。山口県には2つのジオパークがあり、地質遺産を活用し、教育・保全を実施しながら、持続可能な開発を模索している。この2つのジオパークを中心に、山口県の自然について地球の記憶をひもとき、地球目線で自然を学び、楽しむ意義について考察した。
      Wakita Koji
      PP. 21 - 47
    • PP. -
    • 絵画は、描かれると同時にそれらを構成している材料である顔料、接着剤(膠)、基底材(紙、板、布など)の劣化が始まるとされ、その時点から保存や補修を考える必要があると言われている。特に文化財としての価値故に保存されている絵画の修復は、その絵画を後世に伝えるという大きな役割を果たす必要がある。この修復に際して、過去に行われた修復がかえって絵画の劣化を引き起こしている事例が報告されており、主に昭和20 年代から30 年代に行われた合成樹脂を用いた修復において大きな問題となっている。その原因である劣化あるいは白化した合成樹脂層を取り除きつつ、さらに確実な修復を実現する方法が求められている。本報告では、日本画家であり国の選定保存技術保持者である馬場良治氏が開発した特殊な膠による絵画修復の作用機序について、モデル実験を通じて考察を試みた結果について述べる。
      Tsusumi Hiromori
      PP. 1 - 4
    • 現代社会はグローバル化の影響を受けながらも、平和で持続可能なローカルとは何かを考えていく必要があり、学校教育においてもそうした課題に向き合える人材育成が求められている。また、新学習指導要領では高等学校において「歴史総合」・「地理総合」の必履修化が示され、それに対応する教材開発が求められている。本研究では、これらの課題を見据えながら、歴史的思考と地理的思考の両面とGIS 活用も含む学習活動について検討することとした。山口県の歴史事象を整理し、そのうち複数の題材をテーマとした座学とフィールドワーク、GIS 活用を組み込んだワークショップを開催した。座学とフィールドワークを一連とする学習形態は、参加者の主体的な学びを促すことに寄与し、身近な地域や生活の中に歴史があることが認識されると、関連する地域として世界を具体的に捉えることができるようになることが分かった。
      Kagohara Kyoko Fujimura Yasuo Isobe Kenji Tamura Miwako
      PP. 5 - 11
    • 本論は、ボランティア等の活動を通し、学生による様々な社会貢献について、文献と簡易な現地調査によって概観したものである。山口大学の場合、学生の学外での活動に対してサポートの歴史が長く、学生の活動内容も時代と共に変化してきている。学生の課外活動は単に変化しているだけでなく、次第に複合化し、高度化を遂げている。山口大学における学生による社会貢献の一例として、本論では2019 年度に実施されたインバウンド対応企画である「Mini Bus Tour」について紹介するが、従来型の異文化交流ツアーやモニターツアーよりも企画段階で良く練りあげられており、今後の継続次第では社会的・経済的な貢献も期待できる。
      Asamizu Munehiko
      PP. 12 - 19
    • 本研究は、山口県における観光需要の季節変動性について、19 の市町における2013 年から2018 年の6 年間のパネルデータを用いて分析するものである。分析では、季節変動性に影響を与える要因を、自然的要因である気象データと社会的要因である祭りやスポーツイベント、遺産や美術館・博物館などのデータを用いて推定を行った。分析結果、(1)国内観光では、自然的要因では、日照時間、風速、降水量という気象要因が、社会的要因としては、祭り、国宝・重要文化財、記念物・天然記念物、国立公園・国定公園、動物園・水族館が、それぞれ観光需要を刺激する作用を持っていること、(2)訪日観光客では、美術館・博物館のみが観光需要の誘因となっていることが明らかになった。
      Mori Tomoya
      PP. 20 - 31