Study on information published by local governments in the open data era
Title
オープンデータ時代における地方公共団体が公表する情報に関する研究
Study on information published by local governments in the open data era
Degree
博士(学術)
Dissertation Number
創科博甲第82号
(2022-03-16)
Degree Grantors
Yamaguchi University
[kakenhi]15501
grid.268397.1
Abstract
近年,情報通信技術の進化は著しく,データ主導型社会への転換が進むなか,公共データの活用促進,すなわち「オープンデータ」の動きが世界的に広がっている.わが国でも2012年には「電子行政オープンデータ戦略」が政府決定され,オープンデータが本格的にスタートした.オープンデータは,単なる情報公開にとどまるものではなく,公共データを二次利用可能な形(機械判読に適したデータ形式,無償,再配布可能等)で民間に開放することにより,データがこれまで以上の価値を生み出すことを狙うものである.
災害対策,土木・建築事業,ヘルスケア分野など,様々な分野でオープンデータの活用が始まっており,実際に公共の利益に資する例やビジネスの収益をもたらす例などを,確認することができる.しかし,オープンデータに取り組んでいる地方公共団体は未だ100%には至っていない.また,行政が掲げているオープンデータに取り組む意義・目的のすべてが達成されているとは言い難い状況にある.
そこで本論文では,研究の対象主体を地方公共団体に定め,わが国のオープンデータを取り巻く生態系(エコシステム)について仮説を立て,実証実験を行い,地方公共団体のオープンデータ推進を阻む問題点と解決方法を明らかにすることを主たる研究目的とする.そのうえで,オープンデータの付加価値向上の検討を次の目的とする.具体的には,公開されている公共データを情報・ナレッジにまで加工し公表することで,地域社会の課題解決に貢献できるか検討することを目指す.
これらの目的を遂行するために,本論文は次の3つのテーマに取り組む.(1)全国の地方公共団体のオープンデータ取り組みの実態を明らかにし,そこに潜む課題を明確にする.(2)わが国のオープンデータの生態系に登場する,データ提供者,サービス利用者,インフラ提供者などのアクター間の関係を包括的に考察し,地方公共団体がオープンデータを推進するための新たなモデルを提案する.(3)地域活性化にかかわる政策の,提言・評価に直接役立つように「データを情報に変換する」という試みを通じて,オープンデータ活用の更なる可能性を論じる.
本論文の主要な成果は以下の通りである.地方公共団体のオープンデータ推進の実態解明では,市区町村レベルで当該取り組みを促進するには自治体間の連携が重要であることを明らかにし,自治体間連携には3つのタイプがあることを示した.次に,総務省が実施したアンケート調査を自治体の人口規模別に分析することにより,市町村レベルで推進が進まない要因を明らかにした.また,既存のホームページによるデータ公開と,新たなオープンデータによるデータ公開が混在する現状を整理し,そこに潜む課題を明確にした.以上の結果を踏まえたうえで,オープンデータ・エコシステムという枠組みで現状をモデル化し,新たに”データ仲介者”という活動主体での取り組み方法を提案した.そして,都道府県が公開している社会指標を研究対象に選択し,山口県庁にて実験を行い,提案するモデルの効果を実証した.最後に,公共データの一歩進んだ活用法として産業連関表を用いた経済波及効果推計法を提案し,IT産業の立地が少ない地方公共団体では経済波及効果の相当規模が域外に漏出してしまうことを明らかにした.これにより,データの持つ価値を高めて,政策評価にも応用できることを示した.
本論文は,以下の8章から成る.
第1章では,序論として研究の背景,目的および構成について記載する.
第2章では,自治体の情報化推進の歴史を概観したうえで,オープンデータについて定義や意義などを整理し,地方公共団体が直面する課題について論じる.
第3章では,上述の3つのテーマ(1)~(3)に対する先行研究について述べ,本論文が目指す点を明示する.
続く第4章から第7章が,本論文の主な研究成果になる.テーマ(1)は第4,5章に,テーマ(2)は第6章に,テーマ(3)は第7章に相当する.
第4章では,都道府県別にその管内の全市区町村のなかでオープンデータをインターネットで提供している市区町村の割合を算出し,訂正調査と組み合わせて分析した結果について述べる.市区町村のオープンデータの促進には,自治体間の連携が重要であることを明らかにし,自治体間の連携に3つのタイプがあることを示した.そのなかで,”都道府県がポータルサイトの公開機能を市区町村に提供し,その機能を利用して管内自治体が自らオープンデータをアップロードするタイプ”が最も有望であることを示した.
第5章では,より深く地方公共団体のオープンデータ推進の現状を解明する.先進自治体にインタビュー調査を実施したうえで,総務省が実施したアンケート調査結果を再分析し,自治体の人口規模の際により,オープンデータの公開状況に生じる違いについて定量的に検証した.その結果,①地方公共団体のオープンデータ推進には当該団体の人口規模が大きく関係していること,②現状では従来からのホームページサイトと,新たなオープンデータサイトが混在していて,「データの重複に伴う問題」が存在すること,の2点を明らかにした.
第6章では,オープンデータ・エコシステムの枠組みを用いて,わが国のオープンデータを取り巻く世界を描出し,新たに”データ仲介者”という活動主体を取り入れたモデルを提案した.従来,行政には専ら”データ提供者”の立場が求められてきたが,”データ仲介者”の立場を主体的に採ることで,少ないリソースでも付加価値を高めたデータを公開できることを示した.このことを山口県庁での社会指標を対象にした実験で検証した.
第7章では,情報・知識への返還を通じて公開データの価値を高め,政策の提言や評価に繋げることが可能であるかの検証を行った.具体的には,産業連関表を用いた「簡便差分法」という手法を提案し,ソフトウェア系IT企業が都市部に偏在する特徴が,地方公共団体のデジタル化投資の経済効果にどのような影響を及ぼすかを分析した.その結果,IT産業の立地が少ない地方公共団体では,経済波及効果の相当規模が域外に漏出してしまうことを明らかにした.この情報は政策評価に繋がる可能性を持つ.
最後に,第8章で,本論文の総括として,各章の成果をまとめ,今後の課題を論じた.
災害対策,土木・建築事業,ヘルスケア分野など,様々な分野でオープンデータの活用が始まっており,実際に公共の利益に資する例やビジネスの収益をもたらす例などを,確認することができる.しかし,オープンデータに取り組んでいる地方公共団体は未だ100%には至っていない.また,行政が掲げているオープンデータに取り組む意義・目的のすべてが達成されているとは言い難い状況にある.
そこで本論文では,研究の対象主体を地方公共団体に定め,わが国のオープンデータを取り巻く生態系(エコシステム)について仮説を立て,実証実験を行い,地方公共団体のオープンデータ推進を阻む問題点と解決方法を明らかにすることを主たる研究目的とする.そのうえで,オープンデータの付加価値向上の検討を次の目的とする.具体的には,公開されている公共データを情報・ナレッジにまで加工し公表することで,地域社会の課題解決に貢献できるか検討することを目指す.
これらの目的を遂行するために,本論文は次の3つのテーマに取り組む.(1)全国の地方公共団体のオープンデータ取り組みの実態を明らかにし,そこに潜む課題を明確にする.(2)わが国のオープンデータの生態系に登場する,データ提供者,サービス利用者,インフラ提供者などのアクター間の関係を包括的に考察し,地方公共団体がオープンデータを推進するための新たなモデルを提案する.(3)地域活性化にかかわる政策の,提言・評価に直接役立つように「データを情報に変換する」という試みを通じて,オープンデータ活用の更なる可能性を論じる.
本論文の主要な成果は以下の通りである.地方公共団体のオープンデータ推進の実態解明では,市区町村レベルで当該取り組みを促進するには自治体間の連携が重要であることを明らかにし,自治体間連携には3つのタイプがあることを示した.次に,総務省が実施したアンケート調査を自治体の人口規模別に分析することにより,市町村レベルで推進が進まない要因を明らかにした.また,既存のホームページによるデータ公開と,新たなオープンデータによるデータ公開が混在する現状を整理し,そこに潜む課題を明確にした.以上の結果を踏まえたうえで,オープンデータ・エコシステムという枠組みで現状をモデル化し,新たに”データ仲介者”という活動主体での取り組み方法を提案した.そして,都道府県が公開している社会指標を研究対象に選択し,山口県庁にて実験を行い,提案するモデルの効果を実証した.最後に,公共データの一歩進んだ活用法として産業連関表を用いた経済波及効果推計法を提案し,IT産業の立地が少ない地方公共団体では経済波及効果の相当規模が域外に漏出してしまうことを明らかにした.これにより,データの持つ価値を高めて,政策評価にも応用できることを示した.
本論文は,以下の8章から成る.
第1章では,序論として研究の背景,目的および構成について記載する.
第2章では,自治体の情報化推進の歴史を概観したうえで,オープンデータについて定義や意義などを整理し,地方公共団体が直面する課題について論じる.
第3章では,上述の3つのテーマ(1)~(3)に対する先行研究について述べ,本論文が目指す点を明示する.
続く第4章から第7章が,本論文の主な研究成果になる.テーマ(1)は第4,5章に,テーマ(2)は第6章に,テーマ(3)は第7章に相当する.
第4章では,都道府県別にその管内の全市区町村のなかでオープンデータをインターネットで提供している市区町村の割合を算出し,訂正調査と組み合わせて分析した結果について述べる.市区町村のオープンデータの促進には,自治体間の連携が重要であることを明らかにし,自治体間の連携に3つのタイプがあることを示した.そのなかで,”都道府県がポータルサイトの公開機能を市区町村に提供し,その機能を利用して管内自治体が自らオープンデータをアップロードするタイプ”が最も有望であることを示した.
第5章では,より深く地方公共団体のオープンデータ推進の現状を解明する.先進自治体にインタビュー調査を実施したうえで,総務省が実施したアンケート調査結果を再分析し,自治体の人口規模の際により,オープンデータの公開状況に生じる違いについて定量的に検証した.その結果,①地方公共団体のオープンデータ推進には当該団体の人口規模が大きく関係していること,②現状では従来からのホームページサイトと,新たなオープンデータサイトが混在していて,「データの重複に伴う問題」が存在すること,の2点を明らかにした.
第6章では,オープンデータ・エコシステムの枠組みを用いて,わが国のオープンデータを取り巻く世界を描出し,新たに”データ仲介者”という活動主体を取り入れたモデルを提案した.従来,行政には専ら”データ提供者”の立場が求められてきたが,”データ仲介者”の立場を主体的に採ることで,少ないリソースでも付加価値を高めたデータを公開できることを示した.このことを山口県庁での社会指標を対象にした実験で検証した.
第7章では,情報・知識への返還を通じて公開データの価値を高め,政策の提言や評価に繋げることが可能であるかの検証を行った.具体的には,産業連関表を用いた「簡便差分法」という手法を提案し,ソフトウェア系IT企業が都市部に偏在する特徴が,地方公共団体のデジタル化投資の経済効果にどのような影響を及ぼすかを分析した.その結果,IT産業の立地が少ない地方公共団体では,経済波及効果の相当規模が域外に漏出してしまうことを明らかにした.この情報は政策評価に繋がる可能性を持つ.
最後に,第8章で,本論文の総括として,各章の成果をまとめ,今後の課題を論じた.
Creators
中村 英人
Languages
jpn
Resource Type
doctoral thesis
File Version
Version of Record
Access Rights
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