Bulletin of the Faculty of Education, Yamaguchi University

Faculty of Education, Yamaguchi University

PISSN : 2433-3670
NCID : AA12810513

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大学陸上競技選手と一般学生を対象として、多回旋跳びを段階的に増やした4週間の縄跳びトレーニングが伸張-短縮サイクル(SSC)運動遂行能力と走跳能力に及ぼす影響を検討した。陸上選手は通常のトレーニングのみ行わせる群と、それに加えて縄跳びトレーニングを行わせる群に分けた。縄跳びはできる限り短い接地時間で行わせた。縄跳びトレーニングによって、陸上選手では最大連続跳躍(RJ)の跳躍高/接地時間の値(RJ-index値)および走跳種目の記録に変化はなかったが、同じ縄跳びトレーニングを行わせた一般学生ではRJ-index値と立ち幅跳びの記録が向上した。個人値を用いた検討の結果、90回/分の1回旋跳びでは2回旋跳びに比べて接地時間は長い傾向があったが跳躍高は高く、RJ-index値は同程度であった。縄跳びトレーニングによって陸上選手では効果はないが、一般学生のSSC運動遂行能力は向上する可能性があること、また、リズムが約90回/分の短い接地時間での1回旋跳びは多回旋跳びとともにSSC運動遂行能力を高めるトレーニング手段となる可能性が示唆された。
Yasunaga Nao Tan Nobusuke Sone Ryoko
PP. 1 - 11
注視点の周辺文字量が文の理解度と読書速度に与える影響について検討した。視力をもとに実験参加者を2つの群に分けたところ、理解度テストの得点において、低視力者に比べ高視力者の得点が高くなった一方、読書速度においては視力による差が見られなかった。高視力者は理解度を高めるために読書速度を落としていた、あるいは、低視力者は読書速度を上げる代わりに理解度を低下させていたことが考えられる。また、読書量をもとに実験参加者を2つの群に分けたところ、画面に3~4行ずつ提示した文章では、読書量が少ない者は多い者に比べ、主観的な理解度を高く回答した。読書量が多い者はどの提示形態も同程度文字を捉えることができた。一方、読書量が少ない者は、画面全体に全文提示している文章では文字を的確に捉えることが難しいため、空白によって集中して文を読むことができた文章をより理解できたように感じたことが考えられる。
Makaya Fumuno Ono Fuminori
PP. 13 - 19
本研究では、友人などの他者と一緒にいる状況ではなく自分一人でいる状況ですべての座席が空席であることを想定した場面を設定し、出入口の位置と教卓の有無を操作したうえで、座席選択の志向性が、出入口の位置と教卓の有無によって異なるか否か、また、座席選択の志向性とパーソナリティとの関連について、182名の協力者のもと、Web調査を行った。調査の結果、出入口の影響がある群の人数は教室よりも自習室の方が多く、出入口の影響がない群は自習室よりも教室の方が多かった。また、教室においては、出入口の影響なし群よりも出入口の影響あり群の方が、神経症傾向、視線による不安・恐怖が高い傾向にあることが示された。座席選択行動が、出入口の位置や教卓の有無といった部屋のつくりや用途の違いによって影響を受けること、その影響の度合いが選択者のパーソナリティによって異なる可能性が示唆された。
Yamauchi Hiroto Takahashi Kyosuke Ono Fuminori
PP. 21 - 28
ある物体が人間の顔のように見える現象を顔パレイドリアと呼ぶ。本研究では、顔パレイドリアの表情認知に与える性格特性の影響を調べることを目的として調査を行った。調査協力者は、提示された顔パレイドリア画像と人間の顔画像に対し、5つの感情(幸福、悲しみ、驚き、怒り、嫌悪)をどの程度表しているかを評定した。その後、性格特性(BigFive、共感性)の質問紙に回答をした。調査の結果、人間の顔と比較して顔パレイドリアでは複数の表情認知をしやすく、性格特性のうち特に外向性と関連があることが分かった。さらに、外向性の低い人は驚き画像と怒り画像から幸福の表情を読み取りやすいことが示された。
Yanagihara Mako Ono Fuminori
PP. 29 - 33
This study examined the influences of arousal of anticipatory regret by status quo bias on the suppression of hind sight bias. In this study, travel risk in situations of high risk of COVID-19 infection was considered a factor evoking anticipatory regrets, and population density in the area of residence was considered to affect subjective risk of infection for COVID-19. Considering that the experimental participants in this study were university students at a local university, three regions were selected as the evoked travel destinations: overseas countries, urban areas in Japan, and rural areas in Japan. The results of the bias analysis showed that anticipatory regret suppressed the hindsight bias in the overseas condition, while anticipatory regret promoted the hind-sight bias in the rural condition.
Kubo Minori Okibayashi Yohei
PP. 35 - 41
PCAGIP法は、事例提供者の提出した簡単な事例資料をもとに、ファシリテーターと参加者が協力して参加者の力を最大限に引き出し、その経験と知恵から事例提供者に役立つ新しい取り組みの方向や具体的ヒントを見いだしていくプロセスを学ぶグループ体験である。本研究では対面でのPCAGIP法を、可能な限りそのままのかたちでオンラインにて実施し、そのセッションの過程と参加者の感想から、オンラインPCAGIPならではの利点および問題点を検討し、その視点から改めてPCAGIP法の特徴について議論した。PCAGIP法はオンラインでも実施可能であり、多様な参加者を獲得できる可能性を有していること、今後は対面PCAGIPとオンラインPCAGIPの目的に応じた使い分けも有効といえるであろうこと、オンラインPCAGIPは身体性の欠如したテレプレゼンスを前提としており、それはもはやPCAGIP法そのものではないかもしれないこと等を論じた。
Oshie Takashi Ishikawa Chikako Iwano Hikaru Hashiba Yuka Sakai Kaho Takahashi Kyosuke Yanagihara Mako
PP. 43 - 51
カルバート・スクールは米国メリーランド州ボルチモア郊外にある私立学校である。1905年、初代校長V.M.ヒルヤーは全日制小学校の経営難を克服するため、百日咳の流行を直接的な契機としてホームスクール事業に乗り出した。それは、全日制部門とホームスクール部門との間に互恵的な関係を作り出したうえで行われた事業の二極化展開であった。時代背景としては、当時、全米的に整備された郵便事業により、教材を郵送できるようになっていたことがあるが、それに加えて雑誌メディアの一般化によって、そこに広告を掲載することで、広く顧客(ホームスクーラー)を獲得することに成功している。ホームスクール事業に成功したヒルヤーは、後に学校理事会側にロイヤリティを求め、それを認められている。
PP. 53 - 59
本研究の目的は、小学校通常の学級における児童の課題提出行動を対象に、相互依存型集団随伴性とトークンエコノミー法を組み合わせた介入とトークンエコノミー法の段階的なフェイディングを実施し、その効果を検討することであった。公立小学校5年生の通常の学級の児童(14名)を対象に、相互依存型集団随伴性とトークンエコノミー法を組み合わせた介入及び課題提出率のグラフフィードバックを行った。また、バックアップ強化子との交換基準や強化スケジュールの変更によるトークンエコノミー法のフェイディングを行った。介入の結果、児童の課題提出率が増加し、トークンエコノミー法をフェイディング及び撤去しても高い課題提出率が維持された。また、児童へのアンケート調査の結果、一定の社会的妥当性も示された。一方で、介入に伴う児童の負担感については課題が残された。
Arima Taisei Miyaki Hideo
PP. 61 - 66
本研究の目的は、被観察場面で作業を行う際に、観察者が立つ位置を変えることによる、被観察者の不快感情の差異を調べること、また被観察者の性格特性や観察者との関係(知っている人・知らない人・親密性の程度)における関連、被観察者の体感時間との関連を調べることであった。実験では、観察者とお互い知っている人群21名、知らない群11名が参加し、正面、横、うしろの3つの位置から作文課題を行う様子が観察された。実験の結果、被観察者はうしろよりも正面と横から見られた方が不快感情得点は高くなった。また、知っている人群の中でも親密性低群よりも親密性高群の方が、不快感情は高くなった。これらの結果は、被観察場面での不快感情は、観察者が視界に入るか否か、また被観察者の自己呈示や評価懸念によって影響されるという事実から考察された。
Yamauchi Hiroto Tanabe Toshiaki
PP. 67 - 76
本研究は、教師が総合的な学習の時間(以降、「総合」と標記)における学びの様相を談話に着目して顕在化しながら、目指す姿の具現化に受けた授業改善の方向性を探る手がかりとなる、協働の質をとらえる視点を開発することを目的とする。本研究では、教室談話や会話のタイプ等に関わる先行研究、「総合」における協働を通して目指すゴールに関わる先行研究、『OECD Learning Compass Concept Notes』で示された主なコンピテンシー等を整理・分析し、「総合」における協働の質を「つながる」「共に見極める・創造する」という2つの視点からとらえていく必要があることを導出した。また、「総合」における「学びモデル」を子どもの姿で表し、その姿が具現化した教室談話を目指すべき最終段階として、本質的な協働に向かう談話を「第1段階目:無目的」「第2段階目:プレゼンテーション的」「第3段階目:協働的」「第4段階目:協働」として整理した。さらに、協働の質をとらえる2つの視点をそれぞれ具体化し、子どもの具体的な姿とともに提案した。
PP. 77 - 93
本稿の目的は、植民地であったアジアの国が近代国家として独立し、国民形成をしていく過程の中で学校の音楽教育がはたしてきた役割を、シンガポールとインドネシアの事例の比較をとおして考察することである。近代とは常に更新されるものであり、よって19世紀後半に近代国家への転換をはかった日本と、20世紀後半に近代国家として独立したアジアの国々が取り入れた近代は同じものではない。本稿では、シンガポールとインドネシアに着目し、近代化と西洋化が同義であった時代に国民の音楽文化として西洋芸術音楽の普及をはかった日本と、文化相対主義の時代に国家となった両国の国民の音楽文化と音楽教育をめぐる認識と選択の違いを論じていく。
PP. 95 - 105
理論仮説を立て、実践して検証するという手法を取らず、実践の結果から省察することを中心とした本研究では、中学校社会科歴史的分野に掲げられている「現在とのつながり」に着目し、この文言の意味するところと学習展開の在り方を「当事者」「観察者」「評価者」の三視点を足掛かりにすることによって明らかにしようとした。その結果「現在とのつながり」には「存在としての現在」「問題としての現在」「ローカルな現在」「グローバルな現在」など様々な「つながり」の在り方があること、そしてそれぞれの「つながり」を基に学習展開を指導するには、上記三視点のうち「当事者」視点を基底に据え、発問や資料で「観察者」「評価者」の各視点へと展開してゆくことの有効性が浮上した。また、ここからさらなる実践を行った結果「当事者」視点の基底的重要性がより明らかになった。
Yoshikawa Yukio Suemura Kazuya
PP. 107 - 116
本学部社会科教育選修2年次を対象とした「社会科内容開発研究」において、附属中学校の2つの歴史授業を観察し、それぞれの授業から気付いた論点を抽出して発表し、討議する演習を実施した。この演習の成果を受けて、教職課程と社会科教育の今日的動向の中で、教育実習以前の学部段階における社会科教員養成に求められることは何か、について担当教員4名が考察した結果、以下の見解を得た。今日的状況の中で必要なことは、単に表面的にアクティヴな活動やICTを取り入れる等の学習形態を学ぶことではなく、その根底となる知の在り方、知的探求の在り方を問い直させ、社会や歴史の事象を資料に基づいて追究したり、社会や他者の伝える情報を適切に活用して解釈を共有する能力を形成してゆくことに求められる。
PP. 117 - 126
「須磨」巻は源氏物語を読み解くための要所である。そのため本稿では2002年に制作された現代の源氏絵と高校教科書採録の「須磨の秋」原文を対照させながら対話的に読む授業提案を行う。須磨での光源氏の複雑な心情を表すために顔を二重像にし非現実的な表現で描かれた現代の源氏絵を見た学習者は、「なぜこのような描かれ方をしたのか」という「問い」を持ちながら原文を読みすすめていく。物語の転換点ともいえる「須磨」巻を、物語全編の中に位置付け、学習者の現在と関わらせて読む「場」を成立させるために、今回はあえて現代の源氏絵を用いた。「学習意欲が高まらない」ことが長年、高校古典授業の課題として指摘され続けている。そのため少しでも意欲的、主体的に読むための方法のひとつとして絵画と原文を対照させながら読むことを継続して提案している。また2022年度に看護学校と大学の教養教育で筆者自身が行った2度の授業を対象に、絵を用いることの有効性だけでなく、指導者の手立てと学習者の反応がどう関係するかについての分析考察を行った。これにより絵画を用いた古典授業の具体的な留意点、課題を明らかにした。
PP. 127 - 137
本研究の目的は、小学校社会科の単元の中でKCJを用いた授業実践を行い、その教育的な効果について検証した。検証方法としては、「あなたは日本の工業を発展させるためにはどうすればよいと思いますか?」という問いに対する児童の答えをワークシートに記述させ、その回答内容が授業の前後でどのように変化したかテキストマイニングにより分析した。その結果、エキスパート活動・ジグソー活動の中で社会事象の特色や相互の関連、意味を多角的に捉え、考えることで児童の思考が変化し、日本の工業の発展を考える上で海外に日本の製品の良さや工業の技術の高さを「広める」ことや、労働環境を改善することが重要であるという認識が高まっていることがわかった。
Amago Tomoya Nishijima Fumito Nishio Koichiro
PP. 139 - 144
本研究では「コイルのまき数を変えると電磁石の強さはどうなるかを調べる授業」の授業構成について検討し、2時間(45分×2回)の授業(授業①,授業②)を実践し、児童が支持する考え(予想を含む)に関する知見を得た。その結果、授業①を通して、回路に流れる電流について、学級内で児童が支持する考えに違いがある状況から、違いがない状況になり、すべての児童が「コイルのまき数を多くしても、回路に流れる電流の大きさは変わらない」という考えを支持するようになったことが明らかになった。また、授業①、授業②を通して、電磁石の強さについて、学級内で児童が支持する考えに違いがある状況から、違いがない状況になり、すべての児童が「コイルのまき数を多くすると、電磁石の強さは強くなる」という考えを支持するようになったことが明らかになった。その他、考えを支持する主な要因、授業①と授業②の終了時における支持する考えに対する自信の程度についても明らかになった。
PP. 145 - 154
明治期までの日本文化は、大陸文化の影響を受けながら徐々にその形を変えてきた。また、時代とともに残された作品の根底には日本人の価値観や精神が反映されており、今でもその美しさに共感することができる。そのような中、明治期の西欧化は、新しい価値観との出会いとともに、大きな変革をもたらした。日本の美術作品においては、新たな美術の文化を取り入れたことにより、融合した作品が生じた。一方、美術教育においては、西洋の価値や技術をそのまま取り入れた。そして、昭和52年の学習指導要領で「我が国の伝統文化」を導入することで、過去の日本美術のよさを改めて掘り起こすこととなった。グローバル化は様々なものが混ざり合うことによって均質化される側面がある。それは、科学技術の進歩とともに加速化している。明治期以降の美術と美術教育におけるグローバル化に視点をあてることで、日本の独自文化について改めて考察してみたい。
PP. 155 - 162
本研究は、幼児教育の質が問われる一方で、多くの園で保育についての話し合いや記録の時間の確保が難しく、経験に基づく知見が蓄積されにくいことをふまえ、どの園でも保育者が子どもの姿をもとに保育を振り返り、その保育を言語化する力を身につけていくための取り組みについて論考した。その結果、以下の取り組みを提案した。1.毎日短時間でも時間を確保し、保育の中で心に残ったこと、伝えたいことを話したり書いたりする。2.特に心に残ったエピソードも取り入れた記録を書く。3.エピソードをもとに話し合う機会も設ける。4.言語化が難しい部分は写真も活用する。5.話し合いや記録にSOAPの視点を取り入れ、子どもの姿から経験を読み取り、次に必要な経験を考える思考過程を身につける。5.ALACTモデルによる省察で用いられる「問い」を活用し、保育について子どもの側からも丁寧に振り返り、「子どもにとってどうか」という視点から言語化が促されるようにする。
PP. 163 - 172
本研究では、特別支援学校小学部に在籍するダウン症児童1名を対象とし、攻撃行動及び恐怖感や不快感を与える言語行動を減少させ、穏やかな言語行動と黙って見守る行動がより生起(増加)するように、長期研修派遣教員と行動コンサルテーションを実施し、その効果等について検討することを目的とした。攻撃行動等に関するアセスメントの後、介入では、分かりやすく端的な説明、活動場所の明示等の事前対応の工夫、モデル提示等を含む代替行動への対応、環境設定の変更、さらには保護者への複数の配慮と工夫等を行った。その結果、攻撃行動等は減少し、穏やかな言語行動等は増加した。このような結果をもたらした要因として、第1著者による直接行動観察に基づく行動問題の機能同定が必要であったこと、ダウン症の特性を活かした介入手続きが有効であったこと、保護者が家庭で実践するための再現可能な手続き等に関する情報を盛り込んだことが有効であったことが示された。
Tatsuta Riho Matsuoka Katsuhiko
PP. 173 - 182
本研究では、特別支援学校小学部の算数科の個別学習において、自閉スペクトラム症を伴う知的障害のある児童を対象に「少し多く」支払うスキルの形成に向けた指導を行い、その効果を検討することを目的とした。特別支援学校小学部6年生男児1名を対象に、所持金と請求額を比較したときの条件で4つの課題を設定し、補助シートを用いて指導を行った。指導の結果、対象児の「少し多く」支払うスキルが形成された。特に、「〇×〇」(100円玉と1円玉は足りるが、10円玉は足りない)課題や「○○×」(100円玉と10円玉は足りるが、1円玉は足りない)課題においては、補助シートの使用によって正反応率が上昇し、補助シートを撤去した後や所持金を変更した後も正反応率は維持された。一方で、支払いスキルの流暢性や般化、および社会的妥当性の評価については課題が残された。
Yoshida Nanako Miyaki Hideo
PP. 183 - 188
「各教科等を合わせた指導(生活単元学習及び作業学習)」に関する校内研修を実施し、Y大学教育学部附属特別支援学校教員の理解力と指導力の更なる向上を目指した。多忙感を有する教員に身体的・精神的負担を生じさせぬ校内研修にするため、研修はおおよそ月2回(1回約50分間)の開催とし、レジュメを用いつつ、発表(輪番)→協議の順で進めた。発表内容は「各教科等を合わせた指導」に関する文献(論説、実践報告等)である。参加教員は自由意思による7名。研修は計9回(2021.1~2021.6)。変容の有無を客観的に把握するため、(1)山口県教員育成指標(2018)を、知的障害教育の伝統的な指導形態である「各教科等を合わせた指導」の視点から加筆修正して作成した新育成指標に基づく調査、(2)ウェビング・マップに基づく調査、(3)自由記述に基づく調査の三種を実施した。対象教員が7名という少数であるため、確定的なことは言えないが、7名全員に校内研修による変容を見て取ることができた。
PP. 189 - 197
本研究では、特別支援学校の重度・重複障害学級の卒業生の保護者4名を対象に、卒業後のわが子の実態の変容、在学時にわが子と学校に抱いていた思い、現在に活かされている学び等について聞き取り調査を行った。保護者は卒業後のわが子の状態が安定していることに安堵する一方で、在学時とは異なり目標がなくなったことに物足りなさを感じていたり、卒業後の体調面の悪化を想定しきれなかったことに後悔の念を抱いたりしていた。わが子が健康で楽しく学校生活を送ることを第一に願う点は共通していたが、重度の障害のあるわが子に教科学習や新たなことができるようになることを諦めている者がいた。在学時の教育活動を肯定的に評価する一方で、卒業後の生活環境の制約や介護上の負担から在学時の取組の継続が困難であること、移行先への引継ぎの不十分さを指摘した事例が認められた。これらの課題を踏まえて、重度・重複障害のある子どもへの教育について考察した。
Kai Natsu Yanagisawa Akiko
PP. 199 - 206
近年、数式処理の研究分野で注目されているQuantifier Eliminationは応用範囲が広く、様々な分野への応用が可能と言われている。実際、国立情報学研究所が中心となって実施された「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトでは、数学の問題解法にQuantifier Eliminationが活用され、その有効性が確認された。プログラミング教育が必修の小・中学校・高等学校ではIT技術の活用が求められており、小・中学校・高等学校の教員を目指す学生がこのQuantifier Eliminationについて学ぶことは意義が大きいと考えられる。そこで教員を目指す学生の授業の一部において、数学の大学入試問題をQuantifier Eliminationを用いて解くことにより命題論理の演習を実施したので、その経過と結果を報告する。
PP. 207 - 211
高等学校理科物理分野の中でも現象が視覚的に見えなく(または見えにくく)イメージしにくい単元である『電気と磁気』の中でも「RLC直列共振回路」に注目し、この回路に関する定量的理解度向上を目指した教材開発及びその性能評価を行った。それぞれ複数の抵抗、コイル、コンデンサーの中から選択できる構成を採用し、10~15分程度の短時間で異なる組み合わせによる対比実験が容易にできる教材を製作した。教材を活用した実験を通じて、RLC直列回路における周波数と電圧の関係の具体的な導き方を習得でき、さらに共振特性を定量的に理解することが可能となり、深い学びにつながることが期待できる結果を得た。
Higuchi Takumi Shigematsu Hirotake
PP. 213 - 221
水溶液からのL-ヒスチジンの結晶核形成機構を解明するため,pHをジャンプさせることによって得た幾つかの濃度の過飽和水溶液中から結晶核が形成されるまでの時間(誘導期tind)を測定した。測定された誘導期tindを用いて結晶核形成理論に基づいた速度論的解析を行った結果,それらの溶液中で形成された結晶核の表面張σ ,臨界核形成の自由エネルギーΔG *,臨界核の半径r *,臨界核を形成する分子数n など,結晶核形成に関する重要なパラメータの値を定量的に求めることができた。pH6〜pH7の間で行った実験からは,L-ヒスチジンの臨界核は数個から十数個程度の分子からなる半径1〜2nm程度であり,過飽和度が高くなるにつれて,その大きさは小さくなることが明らかになった。
Waizumi Kenji Takahashi Kousuke
PP. 223 - 226
近年の計算機の性能向上やフレームワークの発展により、深層学習が手軽に行えるようになってきた。従来、計算コストの問題や数値化するのが難しかった事象でも、高い精度で回帰や分類などが行えるようになってきている。本稿では、筋電位に注目し手の動作の識別について、深層学習で分類する。実験初期段階では手動で分類していたが、現段階では精度に問題はあるが、リアルタイムで分類することも可能となった。データ取得方法として、ワンボードマイコンの一種であるArduino Unoと簡易筋電センサーのMyo Ware筋電センサーを用いる。
このように、生体信号の一つである筋電位を用いて動作する義手を筋電義手と言い、多方面に渡る応用が期待される分野の一つである。また、筋電位を詳しく理解することによって心拍、脳波、脈拍などの他の信号の理解の助けになると考えられる。
Ito Masataka Kitamoto Takuya
PP. 227 - 235
山口県内の中学生の保護者を対象とし、山口県の「いとこ煮」に関するアンケートを実施し、地域別に分析した。山口県の「いとこ煮」の主な材料は小豆、だんご、干ししいたけ、かまぼこ、麩であったが、1990年の調査よりもだんごの割合が低くなっていた。各地域で特徴あるその他の材料が使われてきたが、前出の調査よりも、使われなくなってきており、地域の特徴ある「いとこ煮」の継承が危ぶまれる。全国的に作られている小豆とかぼちゃの「いとこ煮」が、元々「いとこ煮」が存在しない岩国地域および存在しない地域が含まれる柳井・光・大島・熊毛地域とその隣接する周南・下松地域で多く作られていた。前出の調査よりも、だしが使われる地域が増えていた。砂糖、塩の使用が減り、しょうゆ、酒、みりんが使われていた。山口県の「いとこ煮」に使用される材料、だしおよび調味料に変化が見られた。
PP. 337 - 346
本研究の執筆にあたる白岩、林、脇淵が2021年設立した「山口オペラアカデミー」の活動を題材に、山口地域における音楽振興についての報告と考察を行う。同アカデミーは2022年3月22日に第2回目のオペラに関するセミナーとコンサートを実施した。当日のコンサート来場者に対して実施したアンケートの記述を、「文化的価値」「社会的価値」「経済的価値」という3つの視座を引用し分析と考察にあたった。分析と考察を通して、当該イベントに対して期待されている価値、あるいはイベントが内包する価値が明確になった。今後はセミナー参加者や聴講生、運営など観測範囲を広げることによって、イベント全体の価値についての多角的な検証を行うことが意味を持っていくだろう。
Shiraiwa Jun Hayashi Mariko Wakibuchi Yoko
PP. 247 - 253
本研究は、範唱音源・伴奏音源が登場した経緯と当初の目的及び事例について論じることを通して、音楽科における伴奏の存在意義と範唱音源・伴奏音源の望ましい活用のあり方について再考することを目的としている。まず、大正末期から急速に台頭した音楽鑑賞教育、鑑賞教育における範唱及び範唱音源の活用について論じることによって、その位置付けについて明らかにした。さらに、伴奏音源の始まりと変遷について論じ、初のカラオケレコードが「教育用」小学校伴奏レコードであったことや目的を踏まえ、伴奏の存在意義、範唱音源・伴奏音源の活用方法を再考した。その結果、現在のように伴奏の代替として音源を使用するのではなく、教師によるピアノ伴奏が前提とされていたこと、音源の鑑賞を通して曲趣を味わい、批評の眼を養っていたことが明らかになった。
Takahashi Masako Matsumoto Riki Takahashi Kana
PP. 255 - 264
筆者らは、これまでコロナ禍において歌唱が制限されている「不自由感」、対面授業やオンライン授業に対する学生のポジティブな印象評定が主観的な授業時間の長さイメージや没入感に及ぼす影響に関する研究を行ってきた。また、附属山口小学校の協力を得た研究においては、Googleフォームを用いた授業の「振り返り」において音楽科における没入感を調査し、その結果から音楽科における没入感の認識や領域・活動との関連を明らかにした。本研究では、筆者らが開発した音楽科における小中学生版「深い学び」尺度を大学生向けに適用し、没入感尺度を加えて調査・分析することで、合唱における「深い学び」と没入感の実態を明らかにすることを目的としている。
調査・分析の結果、因子間の相関係数はr =0.6〜0.78と高い値を示し、因子間の相関係数が強いことが示唆された。今年度の合唱の授業では、受講生のモチベーションを高めるよう工夫し、最終回の授業で仕上げの合唱を終えた直後に本研究の調査を実施したことで調査結果に影響を与えたことが考えられる。合唱の授業に対する没入感を高めるには、授業が分かったと考えられるようになること、楽しいと思えるようになることという2つの経路(パス)があることが示された。本研究では、合唱の授業を対象としたが、大学の授業は専門性の高い科目によって占められているため、本研究で得られた知見は他の授業科目にも応用できる可能性がある。
PP. 265 - 274
本稿では子供のコミュニケーション活動を支援するうえで有効な言語学的考え方や理論を整理したうえで、子供がコミュニケーション場面における関係性の認識を深めることが主体的且つ円滑な談話構築に繋がる様子を明らかにしている。教師が作成した動画を用いて、二つのやり取りを比較させることで、子供の気づきを引き出し、自らの実践へ発展させてゆくとりくみについて考察した。指示された表現を使ってただ言うだけではなく、子供が基本的な表現の持つ働きを理解しそれを拡張させてメッセージとして用いていくことで、言語を人と人との間にあるものとして学んでいくことができる、そういった学びの場を作りたいと考える。
PP. 285 - 292
森鴎外作の「高瀬舟」では、高瀬舟で送られる罪人喜助について、「その額は晴やかで目には微かなかがやきがある」という描写がなされている。本稿では、近代の「額は晴やか」の用例をもとに、ここで言う「額は晴やか」は、困る様子・憂鬱な様子が見られてもよさそうな状況において、困る様子・憂鬱な様子が見られないことを表すものではないかということを述べる。あわせて、「目には微かなかがやきがある」の意味についても触れ、庄兵衛の「喜助の顔が縦から見ても、横から見ても、いかにも楽しそうで……」という観察と、「その額は晴やかで目には微かなかがやきがある」という地の文の描写の間には懸隔があると考えるべきではないかということを指摘する。
PP. 293 - 298
山口県若年層の用いる同意要求表現ンジャナイ・(ッ)ポクナイ・クナイについて、〈発見〉場面における用法の異同を明らかにした。クナイは話し手の方が聞き手より情報量を多く持っている場面で使用され、ンジャナイと(ッ)ポクナイは両者の持つ情報量が同等な場面で使用される。しかし、ンジャナイは発話場面にいる話し手と聞き手以外の周縁者との情報共有が可能な場面で用いられやすく、(ッ)ポクナイはそれができない場面で用いられやすいという違いがある。また、ンジャナイは話し手の判断の根拠が十分と言えない場面で、(ッ)ポクナイは十分と言える場面で用いられやすい。クナイは話し手だけが探索物を視認し、主観的な判断で強い確信を持って用いられる。
Kurosaki Takashi 有元 光彦
PP. 299 - 304
日本語の自然会話においては様々な反復現象が見られるが、中でもある話者の発話末尾文にある要素が次の話者の発話冒頭文に現れているような反復現象が観察される。本稿では、そのような会話における反復を「話者間反復」と呼び、話者間反復における「反復発話」の統語的な分析を行う。従来の反復現象に関する研究は、主に反復の機能を探究するものであった。しかし、なぜ話者は反復する要素を特定の箇所に置くのか、どのような箇所に置いて反復をするのかという問題について、未解明である。本稿では、統語的な観点から、反復発話の出現位置について分析する。その際、反復発話に格成分が関わる場合に焦点を置く。その結果、反復する要素は反復発話の文頭により近い位置を指向していることを明らかにした。また、話者間反復が起こる際に、話者間反復の関係にある要素の統語的な近接性の度合いが高いことが判明した。
Chang Yanli 有元 光彦
PP. 305 - 310
中国語においては、舌打ち音の研究はいくつか見られる。しかし、話し言葉を対象とした研究はまだ十分ではない。本稿では、中国語のインタビュー会話を対象とし、舌打ち音の統語的制約及び談話的機能について考察した。その結果、以下のことが明らかになった。
a.舌打ち音は文頭、文中に現れているが、文末に現れていない。
b. 舌打ち音は、聞き手に注意を促し、前に出たトピックの内容をリアルに話し始めるマーカーになっている。
これらの点は、日本語出雲方言の感動詞類「け(ー)」と類似していることから、言語普遍的な性質であるかもしれないということが予測される。また、舌打ち音は、従来の日本語の感動詞類とは音声の面で大きく異なるが、これらの性質の共通性から、感動詞類の定義を再検討する必要があることが示唆される。
Liu Chuanxia 有元 光彦
PP. 311 - 316
本論文は、観光地における英語表記を題材として、学生の異文化間コミュニケーション意識を向上させる学習法を筆者の授業実践から検証した。本授業では、山口県美祢市秋芳洞をケーススタディとして活用し、学習者に外国人旅行者の立場になって現地情報の英語表記を見直させ、その課題を発見させ、自ら翻訳作業を行わせた。その結果、当該の学習法は、学習者の意識を促すことに有効であることを示した。
PP. 317 - 326
古代日本文学は中国文化の影響を多く受けている。しかし事物への概念や表現方法が必ずしも中国の影響かどうかは判別しにくいものもある。事物や表現が同様だからと言って影響関係にあるとは一概に言えないからである。そこで本稿では具体的に「雪」の概念や描き方を例にして、その関係を考えてみる。
「雪」が厳冬期の行路難渋や苦寒という意味では当然のことながら一致している。また影響関係は不明であるが、五穀豊穣の予祝的なものという認識は共通している。しかし『万葉集』では「遠い山に降るもの」という概念があり、神の存在する場所に降る神聖なものという認識がある一方で、中国では神仙的な彼岸と区分するという意味があって、ここが本質的に相違が見られる所である。
本稿では宴席を中心とした「雪」については考察していない。このことについては別稿で論じる。
PP. 327 - 332