山口医学

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山口医学 Volume 7 Issue 1
published_at 1958-01

Epidemiological Studies of the Possible Relationship Between Soil and Mortalities from Cirrhosis of the Liver : Part 3. Relationship between Constituents in River-Water, Rice, Fertilizer and Distribution of Mortalities from Cirrhosis of the Liver in Japan

肝硬変症死亡率と土壌との関連性に就ての疫学的研究 : 第3篇 本邦肝硬変死亡率の地域的差異と河川水,産米尾及び肥料成分との関係
Ishimaru Toranosuke
Descriptions
本邦肝硬変死亡率(1947~1950)の地域的差異と灌漑河川水並びに産米の無機成分との関係について、詳述せるところを要約すれば次の如き事項が認められる。(1)本症死亡率の地域的差異と河川水各成分の綜合的指標と見做されるpH値との関係は一般的に順相関の関係にある。両者の関係は火成岩と水成岩系の両地域に大別してみれば、より一層著明である。換言すれば、pH値は同じでも、火成岩系か水成岩系かによつて本症死亡率に若干の差異が認められる。(2)本邦死亡率の地域的差異と、河川水各成分との相関関係は、一般に河川水のpHと順相関関係にあるものは、本症死亡率とも順相関の傾向を示し、pHと逆相関の関係にあるものは、本症死亡率との相関も逆相関の傾向を示し、本症死亡率との相関程度はpHとの相関程度の大なるもの程大なる傾向が看取される。(3)然しながら、河川水の各成分とpHとの関係は、本邦の地体構造区分に従って、東北日本に属するか西南日本に属するかによって、また地質が火成岩系か水成岩系であるかによつて、その相関傾向や相関度が異なるものが多く、何れの地域でも、pHと順相関、従って、本症死亡率とも順相関の関係にあるものは、Ex.Bのみであり、またその逆の立場にあるものはSO_/Ex.Bのみである。(4)河川水成分の中で、K,SO_4,SiO_2及びSiO_2/Ex.B+SO_4は地質が、火成岩系の場合はpHと順、死亡率とも順相関の傾向を示すが、水成岩の場合は全くその逆である。またCa/K,Na/K、は火成岩系の場合は、pHと逆、死亡率とも逆相関の傾向を示すが、水成岩系の場合は全くその逆である。(5)以上、第(1)~(4)の事項は、本症死亡率が、河川水の各成分の綜合たるpHと重大な関係があることを意味するだけでなく、pH値は同じでも、受水地域の地質環境如何によって、各成分が異なることによつて、死亡率にも若干の幅があることを意味しているものと解される。(6)そこで、河川水各成分の相互関連性を詳細に検討して、地質との関連性を追及して見ると、本症死亡率と関係深き因子としてpHの外に、K, Ca/K, Na/K, SO_4, SiO_2, SiO_2/Ex.B+SO_4が挙げられることは、前述の如くであるが、これ等の因子は地質によって、夫々の成分の均衡が異なり、ひいては、pHとの相関度も異なり、更に進んで本症死亡率との関係比重も異なり、結果的には、CaとNaの相対的量的関係の意義が、特に重大であるものの如く推定される。(7)他面、地質の如何を問わず、本症死亡率と重大な関係あるものの一つとして、Ca-Naが挙げられ、而も、Ca-NaとpHとは順相関、なおまた、本症死亡率とCa-Naとの相関関係もまた順相関関係にあつて、本症死亡率を最終的に支配しているものの一つは、河川水のpHとCa-Naの均衡との綜合と重大な関係あるものの如く推定される。これを按ずるに、本症死亡率と重大なる関係を有する本邦河川水のpH値を大きく左右しているものが如何なる成分であるかということは、これを全国的に見る場合と、地体構造区分別に見る場合、或は地質別に見る場合、若しくは夫々の小範囲の地域において、これを見る場合によつて、若干異なっているが、何れも直接間接本邦の地質並びに土壌環境に由来する成分であることは、軌を同じくし、更にまた、Ca-Naの相対的関係も直接間接夫々の地質並びに土壌環境に由来することの多い成分であることを想えば、本症死亡率と河川水成分との関係も要するに、本症死亡率と土地との間に密接なる関係あることを意味するものにほかならないということができよう。(8)更に、前項の事実を裏書するものは、本症死亡率の地域的差異と、河川水、産米及び肥料成分との間に、夫々密接なる関連性があること。特に産米成分のMg, Mg/Ca, P, P/Ca, P/Kと本症死亡率とが、統計的に有意の相関を示すこと等の諸事実は、本症死亡率の時間的現象、特に趨勢変化の現れた年次が、本邦の販売化学肥料の消費年代区分と軌を同じくして、有機質肥料から無機質肥料に移行した大正末期から昭和の初期にかけての時代と、肥料不足時代の第二次大戦直前直後であることは、肥料成分が本症死亡率の地域的差異と関係あるのみならず、本症死亡率の時代的変動とも関連していることを示唆するものとして注目される。要之、本症死亡率の地域的差異と、河川水、産米及び肥料成分との間には、相互に相関連共通するものがあることは、河川水、産米及び肥料の各成分が、地質並びに土壌成分と、直接間接密接なる関係あることに由来するものであって、本症死亡率の地域的差異と、地質並びに土壌との間に、重大なる関係あることを意味するものにほかならないと見なして差し支えなかろう。