山口医学

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山口医学 Volume 6 Issue 4
published_at 1957-12

Epidemiological Studies of the Possible Relationship Between Soil and Caner Mortalities : Part2. Relationship Between Climatic Soil Zone and Cancer Mortality in Jaoan

癌死亡率と土壌との関連性に就ての疫学的研究 : 第2篇 本邦癌死亡率の地域的差異と気候的土壌型区分との関係
Kitagawa Yoshio
Descriptions
本邦全癌死亡率特に胃癌を中心とした消化器癌死亡率の地域的差異及びそれらの地域的差異の時代的変動と、本邦の気候、地形、地質の綜合たる「気候的土壌型区分」との関係を、物理的、生物的社会的環境因子に就いて、統計的に考察し、次の如き事項を認めた。1.全国都道府県別に観た本邦全癌訂正死亡率並に消化器癌訂正死亡率の地域的差異は、何れも本邦の「気候的土壌型区分」と概ね一致している。即ち、一般的に云って、森林褐色土壌地域死亡率最も高く、弱ボドソール並にボドソール地域これに次ぎ、赤色土壌地域が死亡率最も低き傾向が看取される(第1・0図参照)。2.本邦の気候的土壌型が地形、地質と気候の綜合で、農業生産条件とも密接なる関係ある事実に着目し、これが関係機序を追及し、以下述べるが如き知見を得た。A気候 : ①本症死亡率の地域的差異と各種気候要素との相関は、概ね「気候的土壌型区分」に従って、その相関傾向を異にするものもあるが、Lang氏の雨量温度係数との相関が、全国一律に逆相関々係にある(第一表及び第2・0~2・1図参照)。②本症死亡率の概して高率なる地域は、年平均気温13.5±1.5(℃)、年平均湿度78±2(%)、気温年較差23.5±1.5(℃)の範囲内にあって、農業生産条件よりみれば、「さとうきび」の北限から「たばこ」の北限の範囲内にある。③いずれにしても、各種気候要素との相関で、主体性を示すものは、気温と降水量及び両者の綜合たる雨量温度係数である(第1表及び第2・0~2・1図、第4・0B図参照)。 B土壌 : 本症死亡率の地域的差異と、地形、地質及び気候的土壌型との間には、夫々密接なる関係があるが、河川とその受水地域との関係を併せ考慮すれば、地質との関係が特に顕著である。②一般的に云って、冲積層、洪積層及び第3紀層地域が最も高死亡率を示し、深成岩並に中世層地域はこれに次ぎ、古生層並に火山岩地域が最も死亡率が低い。而して、死亡率と地質との関係は、脳卒中死亡率と対蹠的であるのみならず、一般的に云って、本症死亡率の地域的差異と、脳卒中死亡率の地域的差異は逆相関の傾向にあるものの如く認められる(第3・0~3・1図、附図1A~H、第2~7表、第5・0図参照)。C農業生産 : 本症死亡率の地域的差異と各種の農業生産関係因子との相関は、一般に「気候的土壌型区分」に従って、その傾向と程度を異にするものもあるが、有意の相関を示す因子は概して少なく、全国的に一律に可成り高度の順相関を示すものは、耕地面積比率、米麦反收、就中、水稲反收との相関が強く、本症死亡率の地域的差異の変動は米麦反收増加率特に麦の反收増加率との相関がより顕著である(第4・0~4・3図、第8表参照)。以上本邦全癌特に胃癌を中心とした消化器癌死亡率の地域的差異及び本症死亡率の地域的差異の時代的変動と気候、地形、地質の綜合たる気候的土壌型並に農業生産関係諸因子との間に認められる諸種の相関は、要するに、土地を「生産要素」と見做した場合、癌と土壌との間に、直接間接密接なる関係あることを示唆するものと解される。