山口医学

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山口医学 Volume 6 Issue 3
published_at 1957-09

Epidemiological Studies of the Possible Relationship Between Soil and Mortalities from Cirrhosis of the Liver : Part 1. Yearly Trend and Distribution of Mortalities from Cirrhosis of the Liver in Japan

肝硬変症死亡率と土壌との関連性に就ての疫学的研究 : 第1篇 本邦肝硬変症死亡率の年次的推移と地域的差異
Ishimaru Toranosuke
Descriptions
過去57年間(1899~1955年)における本邦肝硬変症死亡率を統計疫学的に観察し、その生物学的現象(性別、年令階級別)、時間的現象(?勢変化、年次的変動、季節変動)及び地理的現象(地域的差異)について若干の検討を試みたところを要約すれば、次の如き事項が認められる。1)生物学的現象(1)1910年以降1955年に亘つて、略5年毎に本症死亡率を性別、年令階級別にみれば、半対数グラフ上で各年度ともに、青壮年期以後略直線的に死亡率が上昇している。中でも高年齢層になるに従って、死亡率の上昇度が低下している傾向が認められる。斯る傾向は、男子よりも女子に顕著であったのが、近年に至るに従って年令階級別死亡曲線に男女間の差異がなくなりつつあることが注目される。(2)而してこのことは、近年に至るに従って40才以上の高年齢層の死亡率が増加し、40才未満の死亡率が頭打ちするか、逐年減少し、かかる傾向が男子よりも女子において顕著なることに由来するものである。(3)(1)及び(2)の事項は、本来の老衰現象的、素質的因子と環境要因の綜合に起因することの多い原発性肝硬変症が、絶対的相対的に増加し、斯る傾向が男子よりも女子に顕著なることを示唆するものと推論される。2)時間的現象 (4)過去57年間(1899~1955)に亘つて、本邦における本症死亡率の?勢変化、年次的変動及び季節変動の3時間的現象を通覧するに、?勢変化に認められる1899~1925年の抛物線的増加時代、1925~1947年の抛物線的増加時代、1947~1950年の戦後の直線的斬増時代、1951~1955年の直線的急増時代に大別されて、夫々の時間的現象が軌を同じくして変動していることが注目される。 (5)而してこのことは、本症のみならず、我教室の研究によれば、脳卒中、癌、心、腎等一連の老人性疾患において共通的に認められる時間的現象である。 3)地理的現象 (6)1910~1955年に至る46年間に亘って、戦前は約10年毎に、戦後は略5年如に都道府県別に見た本症死亡率の地域的差異は一般に、西南日本の諸県に概して高率で、東北日本の諸県に概して低率である。而してその地域差は時代的に殆ど変動することなく、概ね一定の地域的差異を示していることが認められる。(7)本症死亡率の地域的差異は概ね、脳卒中死亡率の地域的差異と対蹠的であることが特徴である。(8)尚又、これを年令階級別に見れば、地域的差異の最も顕著なのは向老期(40~59才)の死亡率であり、訂正死亡率の地域的差異と特に相関度が高く、両者が最も近似的な地域的差異を示しているのは、50~69才の向老期から老年期にかけての年令階級である。これを要するに、本症死亡率を疫学的にみれば、生物学的現象よりみても、時間的現象よりみても、地理的現象よりみても本症死亡率は、或種の環境要因との関係が少なくないことが推論される。本論文の要旨は昭和32年2月山口医大医学会例会、並に第27回日本衛生学会(総会昭和32年7月)において発表した。