山口医学

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山口医学 Volume 6 Issue 3
published_at 1957-09

Epidemiological Studies of the Possible Relationship Between Soil and Cerebral Apolexy Mortalites in Japan : Part 4. Ralationship Between Mineral Constituents in Rice, Fertilizer and Cerebral Apoplexy Mortality

本邦脳卒中死亡率と土壌との関連性に就いての疫学的研究 : 第4篇 脳卒中死亡率と肥料並に米の無機成分との関係
Ueno Sekio
Descriptions
以上、過去37年間(大正1~昭和23年)に於ける本邦脳卒中死亡率、米麦反収、販売肥料消費量及び産米成分の各年次的推移関係と、全国都道府県別に観た本邦河川水並びに産米の無機成分と消費肥料成分との関係、或は気候的土壌型区分並に地体構造区分別に観た産米の無機成分と河川水成分との関係等、相互の関連性を検討し、而る後、年次的にも地域的にも脳卒中死亡率と産米の無機成分との関係を追求考察し、以下述ぶるが加き知見を得た。 A. 時間的現象(年次的推移)(1)本邦に於ける販売肥料、特に無機質肥料(過燐酸石灰・石灰窒素・硫安・加里の合計)の施肥料と米麦反収並に脳卒中死亡率の3者間には、年次的関係に於て夫々有意(危険率1%)の順相関が認められる(第1.0図) (2)尚又、施肥料と産米の無機成分(N・P_2O_5・K_2O)及び脳卒中死亡率の3者間にも、年次的関係に於て何れも夫々有意(危険率1%~5%)の順相関が認められる。(第4・1図) (3)第1及び2項の事実は、第2篇に於て指摘した如く、脳卒中死亡率の地域的差異と米麦反収、特に反収増加率との相関が有意(危険率1%)の順相関であったことと相俟って、一つの示唆を与えるものがある(第2篇第5・2図参照) B. 地理的現象(地域的差異)(4)都道府県別に観た本邦河川水の化学的成分と消費肥料の成分との間には、各成分によって、或は地域によって、程度の差こそあれ、大勢に於ては何れも順相関(但し、石灰窒素は逆相関)の傾向が看取される(第2・0図)。このことは第3篇に於て指摘した如く、脳卒中死亡率と重大な関係を示した河川水の化学的成分には、主として地質環境に由来するものの外に、肥料の影響が加わっていることを意味するものと解される。(5)都道府県別に観た本邦産米の無機成分と河川水並みに消費肥料の成分との間には、夫々少なからざる相互関連性が認められる(第3・0図)(6)本邦産米無機成分の地域的差異は、土壌の気候的土壌型区分とよく一致し、両者の関係は極めて密接である。然し乍ら、地体構造区分(地形、地質、気候、気候的土壌型区分及び農業経営状態の綜合)とは全てが必ずしも一致せず、両者の関係は相対的に見て前者程顕著でない(第3.1図並みに附表3~4参照)。(7)本邦脳卒中死亡率の地域的差異は、気候的土壌型区分とも密接な関係があるが、地体構造区分との関係がより一層顕著である。(第3.1図並みに附表3~6参照)(8)本邦河川水の化学的成分の地域的差異は、主として地質環境に由来するものだけに、気候的土壌型区分よりも地体構造区分との関係がより密接である(第3.1図並に附表5~6参照)。(9)斯くして都道府県別に見た本邦脳卒中死亡率の地域的差異と産米無機成分との相関は、個々単独の成分よりも各成分比(Mg/Ca, P/Ca, Ca/K)に於てより顕著である。而してその相関傾向は脳卒中死亡率と河川水成分との相関と概ねその傾向を同じくしているが、河川水成分の場合ほど顕著でない(第5.0図)(10)要之、本邦に於ける脳卒中死亡率の地域的差異と産米無機成分との関係は、河川水の化学的成分との関係ほど顕著でないにしても、産米に限らずその他の農産物(麦、豆類、野菜等)の成分に於ても産米と同様の傾向が考えられる等、産米を中心とした農産物の無機成分の差異が、脳卒中死亡率と或る程度の関係のあることは否定し難く、尚且、脳卒中死亡率の年次的推移と産米無機成分との関係も亦、この場合少なくとも統計的には高度のの順相関関係にあることよりして、脳卒中死亡率と産米無機成分との関係には愈々否定し得ないものがあるように認められる。而してこのことは、本邦農民の食習慣上の共通的な缺陥たる極端なる穀類の過食と偏食が原因となつて、質的には脂肪、動物性蛋白質、各種ビタミンの摂取不足、特にカルシウムの絶対的相対的不足等、諸種の栄養上の缺陥を生むに至っている事実と相俟って、益々軽視し得ないものがあるものの如く推論される。而して、上述の如き、本邦脳卒中死亡率と肥料並みに産米無機成分との関係は、要するに、「土地」を生産要素と見做した場合に、本邦の土壌と脳卒中死亡率との間に重大な関連性あることを裏書するものの一つであると見做されよう。尚、本論文要旨は第25回日本衛生学会(昭和30年4月)並に第27回日本衛生学会(昭和32年7月)に於て発表した。